第十九話 小さき賢者
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
巨大な犬のような獣の背に乗った小さな人物。
その人物は、しばらく俺たちを見つめていた。
そして、不意に何かを話し始める。
「――――。」
「……。」
全く分からない。
だが。
サクラとツバキは違った。
二人とも目を見開き、相手の言葉に反応している。
「……通じるのか?」
その様子に気付いたのだろう。
小さな人物が、今度は別の言葉を口にした。
「人間とエルフが一緒に居るとはな。」
「……!」
今度は、はっきりと理解できた。
驚いて、思わず機兵の操縦席から身を乗り出す。
そして、ハッチを開けて姿を見せた。
「あんた……何者だ?」
口をついて出た言葉だった。
相手は「ふむ」と髭を撫でる。
少し考えたあと、静かに口を開いた。
「お前さんら、迷い人か。はたまた、探索者か?」
「……。」
質問の意味を考える。
迷い人。
探索者。
言葉の意味は分からない。
だが、何となく察した。
故意に外から来た侵入者か。
それとも偶然迷い込んだか。
そんなところだろう。
「……まぁ、上から落ちてきた。」
「今は生き延びることに必死だ。」
その返答に、相手は少しだけ警戒を解いたようだった。
「ほぅ……。」
「まぁ、そういうこともあるのかもしれんのう。」
長い髭を撫でながら考え込む。
そして。
『あと三年は時間があると聞いたのだがな。』
「……!」
「……!」
俺とサクラが、同時に顔を上げた。
今。
何と言った?
言葉が聞き取れた。
聞いたこともないはずの言葉なのに。
意味が分かる。
自分では発音できない。
だが、理解できる。
『ほう。』
小さな人物が目を細める。
『この言葉が聞き取れるのか。』
「……。」
『お主ら、記憶持ちか。』
「記憶持ち……?」
初めて聞く単語だった。
だが。
その意味だけは、何となく想像できた。
小さな人物は、静かに頷く。
『古い言葉で言うなら、こう呼ぶ。』
そして。
その一言を口にした。
『プレーヤーと。』
「……!」
「……!」
俺とサクラが、同時に固まる。
情報が多すぎる。
頭が追い付かない。
『であれば、記憶にあるだろう。』
『我ら、ドワーフのことが。』
「……ドワーフ。」
その言葉を、思わず口にする。
人類。
エルフ。
獣人。
竜人。
そして――ドワーフ。
五大種族の一角。
卓越した知識と技術を持ち、幻獣を操ると言われる伝説の種族。
だが。
この世界で目撃例はない。
伝承の存在だ。
「……本当に、ドワーフなのか?」
『嘘をついてどうする。』
呆れたように肩を竦める。
「いや……。」
「伝説の種族が、なんでこんな何もない遺跡にいるんだよ。」
その言葉に、ドワーフは鼻を鳴らした。
『何もない、か。』
『ここは我らの管理区画だからのう。』
「管理……?」
『ここ数か月、変な反応があると聞いてな。』
『確認しに来てみれば……。』
そこで、こちらを見渡す。
『よもや、言葉も通じない者同士が、一緒に暮らしておるとは。』
『こちらが驚いたわい。』
そして。
口元に小さな笑みを浮かべた。
『かなり、お前たちに興味が湧いた。』
その目は、好奇心に満ちていた。
『何故、プレーヤーのことを知っているのか。』
『何故、記憶を持っているのか。』
『……聞きたそうな顔をしておるのう。』
図星だった。
『それを知りたければ、ついて来い。』
『ここより先を見せてやろう。』
◇
俺たちは、ドワーフの後について歩き始めた。
巨大な獣も静かに歩いている。
近くで見ると、本当に犬のような姿をしていた。
だが、どこか魔獣とも違う。
不思議な生き物だ。
しばらく進む。
すると。
建物の片隅で、何かが光っていた。
「……ん?」
細い柱のようなもの。
高さは俺の胸くらい。
表面が淡く発光している。
『まだ動いている端末が残っておったか。』
ドワーフが感心したように呟く。
そして。
その柱の表面に。
文字が浮かび上がった。
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【WELCOME TO ETERNAL】
【PLAYER DATA CHECK】
【MEMORY ARCHIVE LOADING】
---
「……。」
「……。」
息が止まる。
サクラも同じだった。
見覚えがある。
ありすぎる。
忘れるはずがない。
何千時間も。
何万回も。
見てきた文字。
ゲームを起動した時に、必ず目にしていた画面。
「……なんで。」
小さく、声が漏れた。
頭の中が真っ白になる。
ここは、異世界じゃなかったのか。
じゃあ、この文字は何だ。
プレーヤーとは何だ。
記憶のアーカイブとは。
俺たちは、一体――。
次々と疑問が浮かぶ。
そして、そのどれ一つとして答えがない。
隣を見る。
サクラも、同じ顔をしていた。
困惑。
驚愕。
そして――恐怖。
俺たちは、ますます深い疑問の渦へと落ちていくのだった。
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