第十六話 神殿の壁画
ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
機兵、遺跡、秘密基地。
好きなものを全部詰め込みました。
下層の探索が始まってから数日。
俺たちは、少しずつこの階層の地理を把握し始めていた。
上層の遺跡都市とは違い、この場所には草木が生え水が流れ小さな生態系のようなものが出来上がっている。
そして何より――。
魔物がいる。
森で見たことのある狼に似た獣。
大蜥蜴。
見たこともない鳥。
数は多くないが、確かに生き物の気配があった。
だが、それは同時に食料の確保にも繋がった。
今までの数倍、効率の良い狩りができる。
俺が前に立ち、結界と機兵で敵を引き付ける。
サクラとツバキが後ろから援護する。
不思議なことに、この三人の組み合わせは驚くほど噛み合っていた。
ゲームでは敵同士だった種族。
だが、この世界では生き残るための、実に相性の良い組み合わせだった。
◇
その日も、いつものように探索を続けていた。
「……ん?」
石畳の先。
木々の間から、大きな建物が姿を現す。
俺は足を止めた。
「これは……。」
高い天井。
巨大な石柱。
半分ほど崩れているものの、その建築様式は今まで見てきたものとは少し違う。
どこか荘厳な雰囲気があった。
「神殿……か?」
思わず口に出る。
サクラとツバキも、その建物を見上げていた。
◇
周囲を警戒する。
気配はない。
魔物もいない。
静かすぎるほど静かだった。
それでも油断はしない。
俺たちは慎重に中へ足を踏み入れた。
建物の中は広く、ひんやりとしている。
長い年月が経っているはずなのに、妙に空気が澄んでいた。
「……少し休むか。」
今日は随分歩いた。
二人も疲れている頃だろう。
俺たちは神殿の柱の陰へ腰を下ろした。
◇
食事を取り出す。
もちろん、火は使わない。
匂いで魔物を呼び寄せるかもしれない。
ここはまだ、安全圏ではないのだ。
だから今日の昼食は、いつもの保存食。
干し肉。
乾燥させた木の実。
そして水。
それだけだった。
「……。」
木の実をかじりながら、俺は周囲を見渡した。
久しぶりだった。
こんなふうに、周囲を警戒しながら休憩するのは。
森で暮らしていた頃を思い出す。
いや。
もっと昔。
ゲームの中で、未知のダンジョンを攻略していた頃の感覚に近い。
今、自分たちは冒険をしている。
その実感が、少しだけ心地よかった。
◇
「そういえば……。」
俺は二人へ紙を差し出した。
『最近、精霊を使いすぎじゃないか?』
サクラが首を傾げる。
『だめ?』
『出来れば弓で牽制してほしい』
『精霊は危ない時だけ』
しばらく文字を見つめたあと、サクラが紙に書き始める。
『でも』
『戦わないと私たちも強くなれない』
その言葉に、俺の手が止まる。
確かにそうだ。
俺だって、この世界で生き残るために戦ってきた。
危ないから。
寿命が減るから。
だから全部禁止。
それは、二人の成長の機会を奪ってしまうことになる。
サクラはさらに書く。
『守られてばかりは嫌』
『私たちも戦いたい』
「……。」
俺はため息をついた。
頑固だ。
いや、俺も人のことは言えないか。
結局、紙を取り。
こう書いた。
『本当に危ない時だけ頼む』
『命が一番大事』
サクラは、その文字をじっと見つめていた。
そして、小さく頷く。
『うん』
その横で、ツバキも元気よく頷いた。
本当に分かっているのか、少し不安になる。
だが、これ以上は言うまい。
は苦笑した。
◇
ふと。
視線を感じた気がした。
何気なく壁へ目を向ける。
「……ん?」
そこには、大きな壁画が描かれていた。
近づく。
おそらく、この神殿に古くから残されていたものだろう。
世界樹教の聖典だろうか。
絵の中央。
そこには、神のような存在が描かれていた。
妖精王にも見える。
人にも見える。
その存在は、大きな光の玉を天へ掲げていた。
その下には、巨大な木。
世界樹にそっくりな樹。
そして、その根元で祈りを捧げる、一人の乙女。
さらに周囲には、大勢の人々。
その外側を囲むように、魔獣とも竜とも呼べる巨大な存在たちが描かれている。
「……。」
何の絵だ。
いつの時代のものだ。
誰が描いた。
何一つ分からない。
◇
気付けば。
サクラとツバキも壁画の前へ立っていた。
二人とも、黙って絵を見上げている。
まるで、美術館で絵画を鑑賞するように。
静かに。
真剣に。
その姿を見て、俺ももう一度壁画へ目を向けた。
「……。」
不思議だった。
この絵。
初めて見るはずなのに。
どこかで見たことがある気がする。
何処だったか。
思い出せない。
だが。
胸の奥に、何かが引っかかった。
「……なんだろうな。」
小さく呟く。
返事はない。
ただ、壁画の中の光の玉だけが。
どこか、俺たちを見つめ返しているような気がしたのだった。
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