第1章 2:講義初日・午前「座学」、「精霊術」
「座学」「精霊術」の講義、共に世界観の“解説的”内容で、興味のある方だけ⋯と言わず、是非、“読み飛ばし無し”でお願い致します。
m(₋ ₋)m
エリアネィの3日、焰曜。
元々教養のあったナァセは、学舎2年目ながら、座学は“中等1年”。3歳下ながら学舎5年目のアーシェカだが、座学は苦手だったので大分遅れていて、でも「ナァセと一緒なら頑張れる」と、同じく“中等1年”。通常講義初日の午前・前半は、レヴが講師を務める「歴史:セルゥマノス大陸全体」。
「さて、今や大陸西域の大半と中北部を占め、中域にまで迫る大国・ロムル帝国について学んでいくが、その手始めとして、《帝国》では『魔法・魔術』と一括りにされている『精霊術』や『心霊術』、そしてアィエンダーラも含む大陸東域に於ける『魔術』などの違いを、おさらいとして説明してもらおう。そうじゃの…」
生徒達を見回したレヴは、眠そうにしているアーシェカを指名。寝ボケ半分の様相でありながら、アーシェカは内容的にはしっかり答える。
[精霊術]…東の彼方、《精霊の大陸》とも称される、両親の故郷・《エルメーネ》を発祥とする。地・水・火・風・光・闇の6つの基本属性があり、自然界や人里まであらゆる場所に存在する精霊の力を借りて現象を起こす。『地岩術』で農作物を豊かにし、『水氷術』でケガを手当てして、『火焰術』で料理を作り、『風雷術』で湿気の乾燥を早め、『光明術』で暗がりを照らし、『闇寂術』で安眠を得る、といった具合に日常生活でも使うことは多いが、上級ともなれば自然現象をも操ることができる。
[心霊術]…生物であれば「肉体」と共に存在する「霊体」。その強さや大きさには個体差・個人差があり、あまりに弱いと霊的存在や事象を感じることもできないが、訓練や修行によって自身の霊体・霊力を操り様々な現象を起こすことができる。現象の種類は千差万別で、術者の想像力や創造力、人間性や独創性、気持ちや願望などが影響するので、「人の数だけ心霊術の“形”がある」と言われるほど。精霊を感じ、精霊術を操るのにも、心霊力は不可欠。
[聖霊術]…主に《カリァスタ教》圏内で使われている表現で、簡単に言えば「聖職者の心霊術」。治療や浄化・悪魔祓いなど、精霊術の『水氷術』や『光明術』に似た部分もあり、或いはそれを『聖霊術』としている者もいるかもしれない。術者もしくは聖職者としての上級者は『神霊術』としている。
[魔術]…心霊力の強弱に関わらず、定められた“儀式”によって《悪魔》と『契約』を結んだ者が、《悪魔》の力を借りて起こす現象…と、文献には記されているが、そもそも《悪魔》という“存在”そのものが不明瞭。それでも、元来〈持たざる者〉が突如として人智を超えた「力」を得て災禍をもたらした例は、過去に数多く記録されている。
「…以上です。」
説明を終え、アーシェカは再び寝ボケ半分に戻る。
「ふむ。では何故、《帝国》では『精霊術』が『魔法・魔術』とされているのか、分かるかの?」
レヴが次の問いを投げかけ、他の誰も答える様子が無いのを見て、ナァセが口を開く。
「歴史的背景についてはこれから学ぶでしょうから置いておきますが、まず根本として『種族性・民族性』の差異があります。」
―《精霊の大陸》に近いセルゥマノス東域では精霊術は「身近なもの」だが、西へ行くほど心霊力の標準値は低くなり、《帝国》では「感知できない者」の方が圧倒的大多数。そんな民衆にとって、人が起こす或いは操る霊的現象は『魔法』である。
そして聖職者にとって、とりわけ高位の者ほど、自分達の定めた「教義」以外は〈異端〉であるように、自分達の起こす「奇跡の力」たる聖霊術・神霊術以外は『魔術』である―
ナァセの説明を「概ねその通り」とし、レヴは歴史的・宗教的背景の概要を語る。
―《ロムル帝国》の歴史は《カリァスタ教》の歴史と密接な関わりがある。
今では「神の子」とされているイェーゼ自身が教えを広めていたのは、聖都イェルサーラのあるエゥデア王国(当時)とその周辺。当時既に《帝国》の勢力が及んでおり、総督が赴任し、軍が常駐していた。自分達の生活が保障されていた王侯貴族は圧政に苦しむ民には無関心。そんな世で民衆の心に《光》を灯したのが、イェーゼの説く教えだった。
だが、“旧教”《エゥデア教》の神官達はそれを快く思わず、彼を〈罪人〉扱い。手に負えなくなったロムルの総督が裁く権限を放棄したため、旧教によるイェーゼの処刑が決行された。
その後も長きに亘って弟子達・信者達への迫害が《帝国》によって続けられるが、5世紀初頭、時の皇帝によって《カリァスタ教》が『国教』と定められる―
「ここで一旦、《カリァスタ教》を離れ、時代を遡るが…」
―太古の時代より、大陸西域では、現在も暦の「月」の名として残る12柱の神々が信仰されており、その中の一民族から「ロムル王国」が興った。
元々はロムルも十二神の内の一柱を神として崇めていたが、『帝国』として勢力を拡げるにあたって《唯一神》信仰を唱え始め、12柱の神々を《唯一神》に仕える「十二神将」と扱うようになった。「唯一神=皇帝」であるとの暗示によって「世界の支配者」であることの正当性を主張した、とも言われている。また、古い信仰を棄てさせるのではなく幾らか許容することで、反乱抑止にもなる―
「《カリァスタ教》を国教にした際も、『イェーゼ=神の子』ならば『父なる神=唯一神・セゥラネカ』であるとして、旨く調和させた。が、その手法にも限度があり、また《帝国》と《教会》の権威を向上させるためにも、それ以上の吸収・併合は無用と考えたため、大陸東域からもたらされた『精霊信仰・精霊術』を〈異端〉或いは『邪教・邪術』とした、という次第じゃ。」
◇
午前・後半。ナァセは《精霊の祠》の傍にある精霊術教室で、中等精霊術『光闇・基礎』を受ける。
やはり“おさらい”として、アルプ=セォペ先生は『四大元素』の簡単な説明を生徒に求め、指名された男子生徒が応える。
―『四大』とは、精霊術の基礎となる「地水火風」の4つの元素。
『地岩術』は「生命を育む大地の力」。より良い作物を育てるための土壌管理、戦闘では防御や体力回復に用いる。
『水氷術』は「生命の源・癒やしの力」。物を冷やしたり凍らせたり、生活でも戦闘でも傷を治すのに用いる。
『火焰術』は「生命力・活力」。火をつけ、熱したり燃やしたり、或いは攻撃威力を増加させるのに用いる。
『風雷術』は「自由な心・進む力」。風を吹かせたり雷を走らせたり、或いは速度を増すのに用いる。
「うん、じゃあ、それぞれの関係性は?」
「地は水に強く、水は火に強く、火は風に強く、風は地に強い、です。」
「具体的に?」
「…え…と」
男子生徒が言葉に詰まったようなので、
「そ・れ・じゃ…」
アルプ=セォペは生徒達を見回し、ナァセに白羽の矢を立てた。
「…例えば、『大地は雨を吸い込み、火は水によって消され、風は炎の勢いを増し、一方で風によって地は削られる』…精霊術に於いて『四大』の属性の優劣は一応定まってますが、そういった“心象”でより確実なものとなります。」
「はい、その通り―」
「逆もまた、然り…」
先生はその説明で十分と思ったが、ナァセは続ける。
「『硬い岩は風の行く手を阻み、強く吹けばロウソクの火は消え、炎の熱で水は蒸発し、川の流れは大地を削る』…精霊術に於いては『下級に対して中級以上』であれば、或いは術者の実力差が大きければ、“心象”次第で逆も可能となります。」
「…流石、ウェスタフェルト先生の“秘蔵っ子”だね。」
アルプ=セォペは感心半分の呆れ半分。
「いえ、どちらかというと、『持つべきは、善き友』です。」
「そっか、“お嬢”とも懇意にしてたね。本来なら『四大・上級』で学ぶ事だから、今知れたことを幸運と思いな…って言いたいトコロだけど、理屈を知ったからって容易にできる事じゃないから、ね。」
生徒達に念を押し、事のついでにと、ナァセに『光闇』基礎の説明も促した。
「はい。では…まず、その前に、大陸の西と東の『光と闇』の「概念」の違いを知る必要があります。」
―西域では、主に宗教的観念から、「善と悪」「正と邪」。『光』は「神性」の象徴であり、人々を正しく導くもの。『闇』は〈邪なる者〉の潜む場所或いは〈邪なる者〉そのものであるため、西域では『闇の魔法』とは即ち『魔術』。
一方、東域では…というより、『精霊術』に於いて正邪の別は無く、「昼」に対する「夜」、「日向」に対する「日陰」。『光明術』は「希望・解明」で、照明としては勿論、仲間の鼓舞や、閉ざされた扉や箱の開錠にも用いられる。『闇寂術』は「安らぎ・静寂」で、安眠を得たり心を静めたり、応用すれば「自然治癒力の向上」などもできる。そして、汚れを落とし清める「浄化」の術や、一時的に聴覚・視覚を奪う「聾盲」の術など、西域の概念と似たような側面も、少しある―
「はい、お見事。ナァセが言った通り、精霊術に於ける『闇』は“夜の安寧”や“憩いのひととき”が基本概念だから、間違えないように。…で、ナァセ。聞いた話じゃ、君は血縁上、先天的に『闇寂術』に長けてるそうだね?」
唐突にバラされてナァセは一瞬戸惑うが、特に秘密にしているワケでもないので、
「セァテンブロウ先生と同じ、母方の血で、それなりに…」
素直に認めた。
「頼っていい?」
「…善処します。」
どうやら初日から、『闇寂術』に関してはナァセは「助手」に任命されたようだ。




