第1章 1:新学期初日
早速、暦の表記が独特でナニコレでしょうから、そこだけ説明いたします。
まず「神聖歴」…まぁ名前は置いておきまして、おおよそで西暦と同じくらいの年代と思っていただいてOKです。交通事情や文明の程度が“それくらい”ということで。
1年は12ヶ月。年始から「デゥネス」→「エリアネィ」→「フォルガロン」→「ソピア」→「キォラ」→「ネピティア」→「メルァーマ」→「ファルゼー」→「デュメテラ」→「カーシェ」→「イァカザドス」→「マレクドーラ」。
1ヶ月31日、1週間7日、七曜は「心:ラール」→「光:ルッツ」→「焰:フェーレ」→「水:アクォ」→「地:セゥロ」→「風:ヴァヌ」→「闇:ビュオ」。
なので、「エリアネィの2日、光曜」は「2月2日、月曜」にあたります。
大陸の東の果て、学園都市アィエンダーラ。
神聖歴1521年エリアネィの2日、光曜。“岩山の学舎”もあるセーギルゥア石窟院の、通常登校時間より早い静けさの中、ナァセとアーシェカは荷物を置きに一旦準備室へ寄り、それから屋上の祠へ向かうために競技場の脇を通る際、いつもの顔を見かけた。
「新学期初日から早朝鍛錬してるんだ…」
競技場の端で剣を振るうサムロスに、ナァセは少々呆れ交じりの感心を覚えた。
「そっちも初日から“日課”のようだが…アシェは相変わらず朝が弱いな。」
「んー、おはよ…」
観戦席に座って本を読んでいたルゥカミナに指摘されても、アーシェカは否定もなく眠たげに挨拶だけ返した。
「それより、ナァセ。その調子で日課を続けるのなら、もう少し早く起きてこちらに付き合う気は無いか?」
「…遠慮しとく。これ以上の早起きは、アシェにはたぶん厳しいから。」
「…お前だけ早起きすればよくないか?」
「そんなのは、あたしが許さない。」
寝惚けているはずのアーシェカが、そこだけはっきり主張した。
「だって。じゃ。」
それを好機とばかりに、ナァセはアーシェカの手を引いて再び歩き始めた。その後ろ姿を少しだけ見送って、ルゥカミナは読書に戻る。
《精霊の祠》で、ナァセは日課の“祈り”に入り、その傍らでアーシェカはうつらうつらする。いつも通り。
それから、祠のすぐ近くにある階段から3階へ下り、二人は新学期の挨拶をするために校長室へ向かった。扉の前まで来ると、先客がいるようで、中から声が聞こえる。
少し前。今年の数少ない新入生の内の2人、ロドルフとドルーザが校長と面会していた。
「もう少し、余裕をもって入寮していただくよう、お伝えしたはずです。」
「遠路遥々、こんな東の果てまで来るんだ。殆どが海路とはいえ、一旦陸を跨ぐ必要もあるし、順風満帆とはいかないさ。始業式に間に合っただけでも有難いと思え。」
パルェステリア校長は見た目の若さに反して“年長者”の落ち着きがあるが、それに対して、ロドルフは横柄な態度で接している。
「貴方達だけの問題ではないのです。本来なら、学舎や寮での生活について案内すべき担任や寮長も今日から忙しくなりますし、それ以前に、お二人の到着が遅いことを、彼等がどれだけ心配したことでしょう。」
「知ったことか。俺は学びに来ただけだ。無駄に馴れ合う気は無い。」
「そう、貴方はここでは“王子”ではなく“一学徒”に過ぎません。学舎のみならず都市の秩序を守る責任者として、それを乱すような事は看過できませんので、どうぞご承知ください。何も、無理難題を押し付ける気は無いのですよ。」
そう言って校長は優しく微笑むが、それが寧ろロドルフの癇に障った。
「図に乗るな。学舎の校長風情が、俺の国では―」
「残念ですが、貴方の国に伺う予定はありません。それに、子供相手にこのような事を言いたくはないのですが、私、この国のみならず、近隣諸国や、フェゥランカやオゥテム・テォルカなどの大国にも顔が利きますので、お忘れなく。」
相変わらず穏やかなようで、気持ち強めの口調で、校長はロドルフを牽制した。口調の変化こそ僅かだが、発せられた気迫は彼を黙らせるのに十分すぎるものだった。
言い返す気力を殺がれたロドルフは、負け惜しみの舌打ちを残し、退室しようと扉を勢いよく開ける。
「だっっ⁉」
折悪く、開けようとしていたナァセは避け損なって、扉に頭突きを喰らった。
「あ?…短時間で“エルフ”を3人も見るとは…とんだ辺境に来たものだ。」
ナァセとアーシェカを見るなりそれだけ吐き捨て、ロドルフとドルーザは去って行った。
「大した教養だね、謝罪も無いなんて…大丈夫?」
嫌悪感は無く、少々呆れ気味に、アーシェカは2人の新入生の背中を一瞥した。
「ん、へーき。失礼します。」
ちょっと赤くなった程度のおでこを軽く摩りながら、ナァセは入室する。
「おはようございます、校長先生。」
「おはよーございます、母様。」
「おはようございます。でもアーシェカ、学舎では“校長先生”と呼ぶように…」
「他のみんなの前ではそうしますよぅ…」
校長に注意されかけたアーシェカが少し面倒臭そうに途中で反論すると、
「…まぁいいでしょう。」
母は許容した。
「それより、ごめんなさいね、ナァセ。私が大人気無く彼を苛立たせるような事をしたばかりに…」
「あ・いえ、私の注意不足ですので…新入生、のようでしたね。」
「カッサドラ王国の王子とその従者です。」
「…《帝国》の隣国ですね、なら納得です。」
「あらあら、それは偏見ではないかしら。」
校長はあくまで“立場上”の意見を述べただけで、本心でもない様子。ナァセも、特に肯定も否定もしなかった。
そこへ、2人の教員が入って来た。
「やはり、其方も来ておったか。」
先ずは校長に挨拶してから、老教員はナァセにも声を掛けた。
「おじい様、ウォル伯父さん、おはようございます。」
ナァセの挨拶に対してレヴ老子は挨拶で返すが、
「学舎では“先生”と呼べと、言ったはずだ。」
ウォルナードは静かに厳しい口調で注意した。
「ぁあっゴメンなさいっ、休みの間の癖で、つい…」
「身内で教師と生徒というのも、少々難儀ですね。」
少し前の自身の事を思い出してパルェステリア校長は微笑むが、それを向けられたアーシェカはちょっぴり悪寒を覚えた。
◇
始業式後。寮長・副寮長達が2階食堂に集まり、昼食を摂りながらの会合をしていた。
「面倒臭そうなのが入ってきたねぇ…」
フレゥタリア寮長・レンディーネは、言葉だけでなく顔にもしっかり不安を表している。
「隣国の王女としては、やりにくそうだな。」
フォルテス寮長・ファンガスが、そんな彼女を無遠慮に揶揄すると、
「レンにとっては本当に笑い事じゃないんだ、慎んでくれ。」
レンディーネの護衛でもある副寮長・オストロクが窘めた。
「ま・うちの新入生はいつも通り地味で問題も無さそうだが…アレにはルゥカでも手を焼くんじゃないか?」
センテア寮長・セフェリオは“他人事”丸出しに問う。
「知っての通り、今のルィベランカには王族の子女やその従者ばかりだから、ロドルフに気後れするような者はいない…とは思うが…」
ルィベランカ寮長・ルゥカミナは、そこまで言って一瞬何やら思考して、
「…おそらく、私の次兄に似た傲岸不遜の輩だ。手は掛かるだろうな…」
軽く溜め息をついた。そこへ、近くの席にいたナァセとアーシェカが昼食を終えて通りかかり、
「国柄とか地位とかは学舎では関係無い、って言っても、たぶんアイツは平気で持ち込む。」
ナァセは口を挟んだ。
「あれ、今日はもう帰るの?」
二人ともすっかり荷物を持っているのを見てレンディーネが訊くと、
「コルカ。」
とだけ言って二人は去る。
「あー、今日からか。」
「二人とも“小遣い稼ぎ”なんて必要無いでしょうに…」
センテア副寮長・ラフィアは訝るが、
「“お金”ではなく“経験”だろう。」
二人を見送りながらのルゥカミナの言葉に、すんなり得心した。
◇
役所のすぐ脇にある2階建ての建物は、屋根に『CHORRKA』と大きく看板を掲げている。
ナァセとアーシェカがそこへ入って真っ直ぐ受付に行くと、所員・コーサは
「お嬢ちゃんたち、困り事かい?」
と挨拶するが、二人は
「登録、お願いします。」
と、学舎の記章を見せる。
「おや、“岩山”の学生さんだったか、これは失礼…君は、『座学』と『精霊術』が“中等”だね。」
「あ、一応・運動は得意ですよ。話すと長いので詳細は省きますが。」
ナァセは念のため主張しておいた。
「うん・まぁ、“中等”が2つであれば、別に問題無いよ。それで君は…え゙?『座学』『体技』が“中等”で、『精霊術』は“高等”⁉…君、いくつ?」
「今年、13になります。」
アーシェカは得意気に答えた。
「へぇ…いや、なるほど…《純血》か…」
アーシェカの鋭い“とんがり耳”を見て、コーサは納得した。
「話したでしょ、『期待の新人が2人来る』って。」
ナァセとアーシェカの後ろから、エルセネが声を掛けた。
「アレ?先に出たんじゃ…」
アーシェカが不思議がる。
「先に出て、外で食べてたんだ。」
「ああ、お前さんの寮友だったか。」
エルセネの姿を見た時点で、コーサは手元で何やら探していた。
「今日は?」
「いつものだ。」
ナァセの隣に立ったエルセネに、短いやりとりだけで依頼書を渡す。それを受け取るエルセネの紫色の“胸章”に羨望の眼差しを向けながら、
「指名付きの“中級”…」
ナァセは呟いた。得意気な微笑みを返して、エルセネは出て行く。
「働き次第で君らもいずれはなれるだろうが、まず最初の3ヶ月は“初級”からだ。」
そう言ってコーサは登録書を出して、二人に学生証の提示を求めた。
「ウェスタフェルト…もしかして君、レヴ老子のお孫さんかい?」
よくある姓でもないので、すぐにそこに思い当たったようだ。ナァセも即答で肯定した。
「で、君はパルェ…ぇ゙え゙え゙っっ⁉」
不意に目に飛び込んできた“地元有力者”の姓に、流石に彼も驚きを隠せない様子。
「…いやはや、二人とも“小遣い稼ぎ”なんて必要無いだろうに…」
気を落ち着かせてから、コーサは誰かと同じことを言うが、
「色々、経験したいんです。」
と微笑んで返すアーシェカと、頷くナァセ。
「…なるほど“期待の新人”だな。だが、言った通り、最初の3ヶ月は“初級”からだ。」
「…承知してます。」
青色の胸章を受け取りながら、言葉とは裏腹にナァセとアーシェカは少し口を尖らせた。
『万事代行人』の登録を完了し、二人は早速“仕事”の説明を受ける。
―初級者は「初級用掲示板」に貼ってある比較的簡単な依頼のみ受けることが可能で、能力的・時間的に遂行できるのであれば一度に複数受けるのもアリ。完了報酬は依頼書に表記されているが、仕事の手際や質などに応じて増減することもあり、表記額の3割は事務所に納められるが、コルカーレに支払われる「7割」はそれによって増減する―
「別々でやるもよし。一緒にやるなら報酬も分け合うことになるが、どうするんだ?」
「まぁ、とりあえずは一緒…に?」
「一緒に!」
ナァセは一応確認で訊いてみたが、アーシェカは当然とばかりに即答した。
「じゃあ、そこから適当なの選びな。」
言われた通り、「初級用」と表示された掲示板の上の端から順に、二人は目を通す。
「『至急』…?」
その2文字が目に留まり、ナァセはその依頼書を注視する。
『家出ネコの捜索。依頼主:メァゼス・クーマ』
「またか…」
ナァセが音読したのを聞いて、コーサはそう漏らした。耳聡いナァセがその意味を問うと、ここ2~3ヶ月で隔週の週明け頃にほぼ定期的に入っている依頼のようだ。
「いつも担当してるコルカーレは先週から長期休暇取ってて、まだ暫くは帰ってこないんだよな…」
「…いつも、同じ人が受けてるんですか?」
「ん?ああ、確かそうだったと思うが…初回からの報告書があるから、参考になると思うよ。」
コーサは二人を奥へ案内した。
基本は日付順の中で依頼者の姓で分けてあるが、常連客の定期的依頼となるとその逆で保管しているため、すぐに見つけて、保管室の机に並べる。
一通り目を通して、担当者は全て同じである一方、発見場所はほぼ毎回異なることが分かった。
「まぁ、ネコは“気分屋”だからな。捜すのも苦労するだろうよ。」
「…でも、初めの2回は、同じ場所…」
ナァセはその事が気になる様子。
「ありがとうございます。アシェ、行こ。」
何だかよく解ってないアーシェカは少し戸惑いながら、コーサに頭だけ下げてナァセに続いた。
「気ぃ付けてなぁ…」
しばし二人を見送ってから、
「…レヴ老子の孫で、セァテンブロウの旦那の姪、か…何か分かった…のか?」
コーサは広げられた報告書を再び見つめた。
「ナァセ、何処行くの?」
コルカを出てから迷いなく歩くナァセに、アーシェカは理由を求めた。
「とりあえず、“初めの2回”の辺り。『アルカーシェ』の力、借りていい?」
「いいけど…あ~、“ネコ同士”なら警戒されないから…」
突然のことで訝るも、アーシェカはすぐに意図を理解した。腰に提げた鈴に“霊気”を込めて鳴らすと、少し離れた所にいたネコがトコトコとアーシェカの足下に歩み寄る。ふわりと揺れる長い毛が、午後の日差しを受けて七色にも見える。
「青灰色の毛並みに翠緑の瞳で、鈴の付いた赤い首輪のネコ、知ってる?」
アーシェカはしゃがんで愛猫の頬を撫でながら、クーマ家のネコの特徴を伝えた…が、アルカーシェは知らない模様。
「家で大事に飼われてる猫なら、あまり会う機会も無いかもね。アシェの行動範囲も限られてるし。」
「現地で捜してもらうしかない、かぁ…」
二人と1匹は、再び足を進めた。
そして、“初めの2回”とほぼ同じ場所で、あっさり見つけた。
「呆気なく…」
愛猫の力を借りたとはいえ簡単すぎた仕事に、アーシェカは半ば呆れる。
「所詮、“初級”依頼だし、ね。」
ナァセはクーマ家のネコを猫カゴに入れ、
「とりあえず、依頼主に返そうか。」
依頼人宅へ向かう。
中心街や住宅地から離れた、森の前に建つそこそこ立派な邸宅。都市北西部の“山の手”の麓に店舗を構える焼き菓子店「クーマ」の職人の自宅だ。
「まぁ、内容の割に報酬が高額だから、予想はしてたけど…」
「あそこの大辻から山の手方面に来ることなんて無かったもんねぇ…寮の近くにこんな“お邸”があったとは…」
ナァセもアーシェカも、無駄に広く大きなその屋敷に見蕩れるべきか呆れるべきか、しばし門前で足を止めてしまう。
玄関扉の敲き金を鳴らし、出てきた使用人に簡単に事情を話すと、客間へと通され、すぐに主人・メァゼスが現れた。
「…『コルカーレがうちのネコを連れてきた』と聞いて来たが…君達が、かい?」
「はい。このコで間違いないですね?」
ナァセにとっては想定内の反応なのですぐにネコをカゴから出すが、アーシェカはさりげなくトーリティの顔が胸章の横にくるように抱いた。
「いや、済まない。いつもの青年じゃない上に、君達があまりに若かったもので…でも、随分と早く見つけてくれたんだね。ありがとう。」
「トーリティぃぃっ!!」
突然、報せを聞いたクーマ家の娘が客間に入ってくるなり、愛猫に抱きつこうとした結果、勢い余りすぎて激突。
「落ち着きなさい、アデミラ。はしたない…」
「よほど心配だったんだね。」
伸びるアーシェカを余所に、ナァセは気になっていた事を尋ねる。
「トーリティがいなくなる時、何か変わった事とか起きてないですか?」
「変わった事…いや、いつも大抵、娘が先に気付くので、私は特には…」
「いつも、フエみたいな音がきこえるよ。でも、なんだか、あたしだけきこえてて、ほかの人たちにはきこえてないみたいで…」
アデミラは、少し自信無さそうに答えた。
「“笛の音”?…確かに聞いたことは無いが…しかしアデミラ、何でそんな大事な事…⁉」
父親は少し声を荒げてしまい、娘は少し泣きそうになる。
「だって…おてつだいの人たち、だれもきいてないって…」
「教えてくれて、ありがとう。」
ナァセはアデミラの頭を撫でながら、次の質問をする。
「ありがとうついでに、もう1つ。それって、いつも“曜日”決まってる?」
「ぁ…ぇと…たぶん…」
「ああ、それなら、隔週の“風曜”、だね。それで暫く様子見て、帰ってこなかったら週明けに依頼を出しているんだ。」
すぐに思い出せない娘の代わりに、父が答えた。ナァセは鞄から学舎の時間割表を取り出し、確認する。
「うん、『歴史』なら1コマ飛ばすくらい大丈夫。」
「うぅ…あたしはちょぉっと外せないよぉ…」
問題無さそうなナァセに対し、アーシェカは休めないようだ。
「隔週なら、次またあるとしたら、来週ですよね?その日、遊びに来てもいいですか?」
「いいのかい?うちは構わないけど…」
「何が起きているのか探る必要もあるので、『次で終わりにする』とは確約できませんが…」
ナァセは再び愛猫を抱いているアデミラに向き直り、
「トーリティは必ず連れて帰るから、協力してもらっていいかな?」
許可を求めた。ちゃんと理解しているかは判らないが、アデミラは首を縦に振る。
「そうなると、単純な『家出ネコの捜索』じゃなくなるな…改めて、『根本的解決』を依頼する必要があるね。」
メァゼスの言葉を受けて、
「そう…だと、思います…」
流石にナァセは対応できかねる様子。
「スミマセン、今日が“初日”なので、その辺の事はまだ…」
「えっっ今日が“初日”⁉それにしては…いや・まぁ、とにかく、これから依頼手続きに行くし、君達も報告に戻るんだろう?ついでだから送るよ。」
―ということで、使用人に留守を任せ、クーマ家主人は若きコルカーレ2人と共に馬車でコルカへ向かった。
手続きを終え、西の空が赤いうちに、メァゼスは帰途に就いた。それを見送りながら、
「初日から“指名”を得るなんて、前代未聞だな。」
コーサは新人二人に素直に感心せざるを得なかった。クーマ家主人の出した新しい依頼「当家ネコの“定期的家出”事案の根本的解決」は、ナァセ(と、一応アーシェカも)を指名していた。
事務所に戻って、改めて今回の「ネコ探し」の完了報告書を見て、
「随分早く見つけたな。」
これまた感心するコーサに、ナァセは経緯を説明した。
「おいおい、それが本当なら…あの野郎…」
話を聞いたコーサは、何やら呆れた様子だ。
「ちゃんと調査しないと実際のトコロは分からないけど…とりあえず“彼”には伏せておいてもらえますか?」
ナァセが念を押すと、コーサは承諾して
「“初級で指名”もそうだが、依頼内容も“中級以上”の案件だから、一応所長に相談する必要があるが…たぶん、君なら問題無いかもな…また追って知らせるよ。ひとまず、今日はご苦労さん。」
“早期解決分”も上乗せされた完了報酬を、ナァセとアーシェカに渡した。
「ぅわぁ…」
費やした時間や労力に対して高額すぎるので、喜ぶべきか呆れるべきか、二人とも戸惑いを隠せない。




