4.王宮魔術師試験(5)
「なんで!」
「そうだ、なぜだ!? こんな逸材、他にいないぞ!」
試験官まで、リディアと一緒にレイに詰め寄る。
「だって、リディアの結果が」
レイはリディアの顔をじっと見る。
「私?」
当然不合格だったが、想定の範囲だ。
「……もしかして、私が王宮魔術師になれないからレイも辞退するつもり!?」
「うん、そうだけど」
「本気なの⁉」
「本気だよ」
レイは頷く。
「なんて勿体ない! 国に仕える栄誉を……!」
今度は試験官が説得にかかる。
「いらない」
とりつく島もない。何を言ってもレイは一切揺らがなかった。
「リディア。俺魔法使えるようになったから、先生のなんでも屋で働くよ」
「……うん。それがいいかもね」
これ以上の説得は無理だと、リディアは諦めたのだった。
◇ ◇ ◇
アルファールの王都には白亜の塔がある。優れた魔法使いだけを集めた世界最高峰の魔法機関――魔法庁だ
その最上階の執務室で、一人の男が苛立ちに満ちた目で部下を見据えていた。魔法庁トップのダリウス・クロウウェル──アルファール最高の天才魔法使いと名高い男だ。
「まだ見つからないのですか?」
「はい。申し訳ございません」
部下は所在なさげに頭を下げる。
「謝罪の言葉を聞きたいのではありません。私は、いつになったら私のフォシニを捜し出せるのかと聞いているのです」
「全力で探してはいるのですが──」
ダリウスは白髪の混じる黒髪をかき上げつつ、黒い目を眇める。年齢が五十を超えても整った顔立ちはなお冷たく端正で、他者を圧倒する威圧感がある。
「話になりませんね。彼が失踪してからどれくらいだったと思っているのです? もう110日です。110日もの間、あなた達は一体何をしていたのですか?」
ダリウスは穏やかな、けれど目だけは決して笑っていない表情で、部下に問い掛ける。部下は「その……」と言ったまま。口ごもった。
「困りましたね。彼がいないと、私が使う魔力が足りません。先日、結界が揺らいだのをあなたもご存じでしょう?」
「今、奴隷商からフォシニを大量に仕入れられるよう手配しております」
「他のフォシニでは間に合わないんですよ。何人のフォシニがこの110日間で使い物にならなくなったと思っているのですか?」
「も、申し訳ありません!」
再び部下の男は頭を下げる。ダリウスの静かな怒りに恐怖を感じているのか、その体は小刻みに震えていた。
「とにかく、ありとあらゆる場所を探すのです。わかりましたね」
「は、はい!」
部下は慌てたように部屋から出ていく。ダリウスはその姿を見送りつつ、舌打ちした。
(この、役立たずが)
魔法庁トップであるダリウスは、高度な魔法を使う分、消費する魔力も多い。そのため、常に複数のフォシニを所有している。
彼の所有するフォシニは全員魔力量が多い最高品質な者ばかりだが、中でも圧倒的な魔力量を誇るお気に入りのフォシニがいた。そのフォシニが、数カ月前に逃げ出したのだ。
フォシニが逃げたことに気付いだダリウスは、すぐにありとあらゆる手を尽くして彼を探させた。しかし、未だに見つからない。今は代用のフォシニを仕入れることで急場をしのいでいるが、そのフォシニがいなくなった穴は数人、数十人のフォシニがいたところで埋められるものではない。
もしあのフォシニが他の誰かのものになってしまったら。ダリウスは天才魔術師の名をその誰かに譲るという苦汁をなめるかもしれない。それほどまでに、彼は重要なフォシニだったのだ。
「なんとしても、早く見つけ出さねば……」
なんなら、死体でも構わない。
ダリウスは苛立ちから、足をカタカタと揺らす。
そのとき、ドアをトントンとノックする音がした。扉が開き、先ほどとは別の部下が顔を出す。




