4.王宮魔術師試験(4)
「……レイ。お前、誰かのフォシニだったって言ってたよな? 誰のフォシニだったんだ?」
「わからない」
「あ?」
「あいつの名前、知らない」
「ああ、なるほどな」
シリルは食べ終えたスイカの皮を捨て、腕を組む。
「これだけの力を持った奴をずっと地下室に監禁するって、なかなかできることじゃないぞ。しかも、そいつがレイのことをソルヴィアだと気付いてなかったとは思えない」
「それって、レイがソルヴィアだと知りながら、拘束していたってことですか?」
リディアは驚き、シリルに聞き返す。
「確証はないが、恐らくな」
「そんな……」
この国ではフォシニは奴隷として認められているが、魔法使いは希少性ゆえに国から優遇されている。ましてや、魔力を自ら作り出し魔法を使えるソルヴィアの希少性は言うまでもない。
ソルヴィアだとわかっていて奴隷にしていたのだとしたら、明確な法律違反だ。
「本当にひどいやつね」
許せないと思った。
いったいどこのどいつがそんなひどいことを……と、リディアは憤る。
(レイが辛い過去を乗り越えて前に進めますように)
そう願わずにはいられなかった。
──二カ月後。
レイは、ほとんどシリルと肩を並べるくらいまで成長していた。
「悪いが、もう教えることがない!」
「冗談でしょう?」
リディアはシリルに聞き返す。まだシリルがレイに教え始めて二カ月足らずだ。
「冗談に見えるか?」
シリルは肩を竦める。
「魔力の流しかたも、魔法の瞬発力も、威力も完璧だ。俺が教えた魔法も完全に使いこなしている」
リディアは言葉を失う。
(たった二カ月で? 本当に?)
シリルが嘘をついていると本気で思っているわけではない。それくらい、信じがたいことだということだ。
なぜなら、魔法の使い方は幼少期から家庭教師に習い、さらに魔法学校で二年間かけて学ぶのが一般的なのだから。
「じゃあ、もうここには来なくていい?」
当のレイはけろっとした様子でシリルに尋ねる。
「ああ。俺から学ぶことはないからな。だが、ここで終わりにするのは惜しい」
シリルは顎に手を当てる。
「レイ。お前、もうすぐ行われる王宮魔術師の採用試験を受けてみろ」
「王宮魔術師の採用試験?」
レイは首をかしげる。
「王宮魔術師になるための試験だ。通れば、正式に国に仕える魔法使いになる」
「え! レイ、すごい!」
リディアは興奮気味に言う。
王宮魔術師は、魔法使いの中でも極めて優秀な一握りだけがなれる。もし王宮魔術師になれば例えば王宮に自由に出入りできるなど貴族のような特権が与えられるだけでなく、国から衣食住も保証される。多くの魔法使いたちの憧れの職業だ。
「お前なら間違いなく受かる」
シリルは断言する。
「レイ、どう?」
リディアはレイの顔を覗き込む。レイは、ほんの一瞬だけ考える様子を見せてから、首を横に振る。
「リディアも受けるの?」
「私は受けないわよ。受けても受からないし」
「じゃあ、俺も受けない」
「え?」
「興味ない」
「でも……」
「だって、リディアがいないし」
あまりにも当然のように言うので、リディアとシリルは呆気に取られる。
(え? 私がいないから受けない? 本気? そんな理由で?)
レイに懐かれている自覚はあるけれど、ちょっとこれは理解を越える。
「相変わらず重いな、お前」
シリルがボソリと呟く。
「普通だろ」
「普通じゃねえよ」
シリルは突っ込む。
「ちょ、ちょっと待って! 本気で受けないの?」
リディアは焦った。
そんなバカな。これは自分がなんとかしなければと思ったリディアは決意する。
「わかったわ。私も受ける! だから、レイも一緒に受けに行くわよ!」
レイを連れていくには、これしか方法が思い付かなかった。
その翌週。
リディアはレイを連れて王宮魔術師の採用試験会場に行った。名目上はリディアも志願者だが、実質上は保護者である。
レイの結果は当然ながら――
「……合格」
試験官が震える声で告げた。
「全科目満点です」
周囲にいた他の志願者達からどよめきが起きる。
「ぜ、全科目満点!?」
リディアも驚いたひとりだ。聞き間違いかと思い聞き返すが、間違っていなかった。
レイの力は、すでに規格外なのだと思いしらされる。
「おめでとう、レイ! これでレイも王宮魔術師だね」
リディアは心からの祝福を贈る。
王宮魔術師になれば寮もあれば給与もたくさん貰える。いよいよレイも巣立ちのときか、と感慨深い。
「え? 俺、王宮魔術師にならないよ?」
レイはさらっといい放つ。
「えっ?」
リディアは驚いた。




