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無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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4.王宮魔術師試験(3)

「……リディアを守れるし、助けになれる?」

「ああ。だが、半端な気持ちなら教えられねえな」


 挑発するようなシリルの言葉に、レイはすっと目を細める。


「半端じゃない」

「へえ?」

「リディアを守るためなら、何でもやる」


 レイの纏う空気が一瞬で変わった。

 シリルは、興味深げに目を眇めた。


「……なるほどな」


 ゆっくりと頷く。


「いい目だ。お前、きっと最強の魔法使いになるぞ。だが、その前に肩もみだ。約束だからな」


 シリルは右手で自分の左肩の辺りを摩る。

 

「リディアは先に帰ってろ。お前がいると、こいつの気が散る」

「あ、はい」


 リディアはぺこりと一礼する。後ろ髪を引かれながらも店を出ると、背後を振り返る。


「大丈夫かな……」


 シリルであれば安心してレイを任せられるとわかっていても、心配になってしまう。リディアは忍び足で店の前まで戻ると、ドアにはめられたガラス越しに中を覗く。


「いてー! お前、力強すぎだ!」

「リディアに触れたのに肩を砕かれずに済むだけ、ありがたく思って」

「お前、目がマジだな。ちょっと重すぎるぞ!」

「じゃあ終わりにしていい?」

「だめだ。まだ二十九分残ってるぞ」


 ふたりがギャーギャーと言い合っている。


「ふむ」


 リディアは顎に手を当てる。

 今日初めて会ったにしては、随分息があっている。

 なかなかいい子弟になりそうな気がした。

 


 その日の夜。

 レイはちょうど夕食が出来上がる頃に帰ってきた。


「おかえり、レイ」

「うん、ただいま」

「夕御飯出来てるよ」


 リディアはてきぱきと盛り付けの準備をする。そのとき、右肩にトンっと重さを感じた。背後に立つレイが額を載せてきたのだ。


「レイ? どうしたの?」

「……リディアは、ああいう大人の男が好きなの?」

「はい?」


 意味がわからなかった。

 ああいう大人の男とは一体?


「シリルみたいな」

「何を言ってるの」

「だって、リディアが楽しそうだったから」


 リディアは体を捻ってレイを見る。珍しく、拗ねたような顔だった。


「……あのね」


 リディアは軽くため息をつく。


「シリル先生は、ただの師匠よ」

「本当にそれだけ?」

「本当にそれだけ」

「じゃあ、俺のほうが好き?」

「何の勝負なのそれは?」


 リディアは呆れて息を吐く。どっちが好きだなんて、決められるはずがない。シリルもレイも、リディアにとっては大切な人なのだから。


「レイ、どいて。ご飯食べよう」


 話を終わらせようと、レイに背を向ける。

 その瞬間、後ろからぎゅっと抱きしめられた。


「リディア」

「何?」

「俺のほうが好きって言って」

「言いません」

「どうして」

「ふたりとも好きだもの」


 レイはしばらく黙りこむ。

 シリルの指摘していた通り、レイは時々子供のようなただを捏ねる。リディアは少し考え、「あ!」と声をあげる。


「でも、魔法の勉強を頑張るレイはもっと好きかな」

「本当?」


 レイは目を輝かせ、リディアを見つめる。


「じゃあ、俺頑張るよ」


 レイの表情が綻ぶ。

 こういう純粋なところが、なんだかんだで可愛いと思ってしまう。


「うん。頑張れ」


 リディアもにこりと微笑んだ。



  ◇◇◇



 その日から、レイは町に行くのが日課になった。魔法を教わりに、シリルの元に行くのだ。

 リディアは以前からだいたい数日おきに町に向かい、買い物をしたり薬を納品していた。今は、そのあとレイの訓練の様子を覗きに行くのが定番だ。


「魔力の流し方が粗い。もっと細く制御しろ」

「くっ!」

「そんな力任せじゃ、いずれガタが来るぞ。それとも、お前はその程度か?」


 シリルの叱責が飛ぶ。

 もう嫌だと駄々をこねるのではないかというリディアの心配をよそに、レイはシリルのしごきについて行っていた。

 何度も何度もやり直ししては、それを自分のものにしていく。


(……レイ、すごい)


 レイの成長は、異常なほど速かった。

 シリルに教えられたことは確実に習得し、一度見せられた魔法は正確に記憶する。魔力の流し方も指摘されればすぐに修正し、あっという間に力をつけてゆく。


 普通なら数ヶ月かかることを、レイは何倍ものスピードででやってのけているように見えた。


「よし。今日はこんなもんでいいだろう」


 シリルはにやっと笑う。それを確認してから、リディアは二人に近づいた。


「レイ、お疲れ様」

「リディア!」

「レイはすごいね。最初の頃とは比べ物にならないよ。ですよね、師匠?」


 リディアはシリルに同意を求める。


「ああ、そうだな。俺が今まで見た奴の中でもだんとつの、呑み込みのよさだ」


 ふたりから褒められ、レイは照れくさそうな顔をする。こういうところが、まだ少年ぽさが残っているなと感じる。

 リディアは町で買ったスイカを、ふたりのためにカットする。三人は店の前の縁石に並んで座り、それを食べ始めた。


「……正直、最初にレイが見よう見まねで覚えたって言っているのを聞いたときは、さすがにそれはないだろうって思ってたんだ。だが、この呑み込みの早さから判断するに本当にそうなのかもな」

「そうだって言ってるだろ」


 嘘つき呼ばりされ、レイは眉根を寄せる。


「そう怒るなよ。それくらい、異常なことだってことだ。端的に言うと、化け物だな」

「先生?」


 レイはじとっとシリルを見る。


「いや、褒めてるんだか貶してるんだかわからん言い方になっているが、褒めているんだ」


 シリルは慌てたように申し開きする。



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