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無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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4.王宮魔術師試験(2)


「まあ、いい。よし、早速だが見せてみろ」


 シリルが促すと、レイはシャツのボタンに手をかける。露わになった下腹部には、はっきりとフォシニの刻印が刻まれていた。


「ほう。かなりしっかり入っているな」


 シリルはまじまじとその刻印を観察する。刺青のように見えるが、実際は刺青ではなく、魔力を使って刻んだ消えない痣だ。

 

「消せそうですか?」

「おそらく。まあ、見てろ」


 シリルはにやっと笑うと、レイの刻印に手をかざす。

 なにやらぶつぶつと呪文を唱え始めた。


(師匠がいてくれてよかった)


 リディアは心から思う。


 平民にもかかわらず王宮魔術師にまで上り詰めたシリルは、一言で言うと『努力する天才』だ。魔法の才能に溢れながら、常に努力も怠らない。一時期はあの天才魔術師と誉れ高いダリウス・クロウウェルに迫る勢いだったと聞いたことがある。

 しかし、結局はダリウスの圧倒的な才能を前にシリルは己の限界を悟った。そして、紆余曲折を経て町のなんでも屋になったのだ。


 だから、シリルの魔法の能力はこの国で五本の指に入るレベルであると言っても過言ではないのだ。


「よし。どうだ?」


 時間にして十分ほどだろうか。

 シリルが印紋にかざしていた手を外す。リディアは顔を近づけて覗き込む。


「わ、すごい! 薄くなってる!」


 リディアは感嘆の声を上げる。

 ここに来たときははっきりと刻まれていいた印紋は、今の十分ほどで明らかに薄くなっていた。


「これを刻んだ魔法使いは、相当の使い手であることは間違いないな。一度ではこれが限界だ。だが、何回か繰り返せばかなり薄くなるだろう」


 シリルは落ち着いた口調で説明する。


「わあ。よかったね、レイ! 何回か通えば消えるって!」


 リディアは喜んでレイに笑いかける。

 フォシニの刻印がレイが自由に生きるためには妨げになっている気がして、どうしても消してあげたかったのだ。


「おい、リディア。一回につき肩もみ三十分だからな。忘れるなよ」

「わかってますって!」


 シリルに釘を刺されて、リディアはぷくっと頬を膨らませる。そのとき、「俺がやる」という声がした。


「おっさんの肩もみ、俺がやる」


 リディアはきょとんとしてレイを見る。


「え。レイは気にしなくていいよ。私が勝手に師匠に頼んで、引き受けてもらったんだもの」

「でも、俺の刻印を消してもらったんだから俺がやりたい。これ以上、リディアに貸しを作りたくない」


 はっきりと言われた瞬間、胸がずきっと痛んだ。


 ──これ以上、リディアに貸しを作りたくない。


 初めて言われる台詞だった。これまでは何かと甘えてきてばかりだったレイが、初めてリディアを突き放すような言い方。

 

(本当に気にしなくていいのに)


 この寂しさは、子供が巣立つのを見送る親の気持ちに近いのかもしれない。


「……そっか。じゃあ、おねがいしようかな」


 リディアはそう言うと、シリルのほうを向く。


「師匠。それと、もうひとつお願いがあるんです。レイに魔法の使い方を教えてあげてほしいんです」


 リディアの言葉に驚いたのはレイだ。


「リディア? そんなの必要ない。教わらなくても、見よう見まねで使える」

「レイ。魔法は使えればいいってわけじゃじゃないの。制御ができていないと危険なの」


 リディアは首を振る。


「昨日の魔法、威力が強すぎたわ。周囲の人が怪我をしかねない状況だった」

「怪我してないよ」

「結果論でしょ」

「リディアが無事だったなら、それでいい」

「よくないわ」


 リディアは、はっきりした声で言う。


「周りを助けようとしたレイが誤って周囲を傷つけて、結果的に非難されることになったら嫌なの。それに、あんな強力な魔法を見様見真似だなんて、少なからずレイの体にも負担がかかっていたはずだわ」


 レイは黙り込む。


「おい、ちょっと待て。今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。昨日の魔獣は、この坊やが退治したのか?」


 ふたりのやりとりを聞いていたシリルが、驚いた様子でリディアに尋ねる。


「坊やじゃないって言ってるだろ」

「そうやってすぐむきになって突っかかってくるところがガキだって言ってるんだよ。リディアはお前のためを思って、こうして俺に頼みに来たんだぞ」


 シリルは呆れたような目でレイを見る。レイはぐっと言葉に詰まった。


「フォシニなのに魔法を使えるってことはソルヴィアか。聞いた話によると、一撃で大型魔獣を倒したらしいな?」

「はい。襲われそうになった私を庇って、一瞬でした。少なくとも三種類──身体拘束系の魔法と物理的攻撃系の魔法、それに燃焼系の魔法を使っていたように見えました」

「魔法の使い方を習ったことがないのに? そりゃすごいな。思わぬところに金の卵がいたもんだ」


 シリルはひゅうっと口笛を吹く。そして、未だに黙り込んでいるレイを見つめた。


「おい、坊や。はっきり言って、今のお前はリディアにとって、ただのお荷物だ。だが、魔法がうまく使いこなせるようになればリディアを守れるし、助けになることもできる」


 レイがはっとしたように顔を上げる。

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