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無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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4.王宮魔術師試験(1)

 乗り合い馬車で町の中心部に出て、通り沿いを歩くこと約十五分。リディアはシリルの何でも屋の前で立ち止まる。


「ここよ」


 リディアが教えると、レイは店の看板を見上げる。


「なんの店?」

「なんでも屋よ。魔法を使って、色々なお困りごとを解決するお手伝いをするの。さっきも伝えたけど、ここにレイに会わせたい人がいるの。私にとって、とっても大切な人よ」

「……リディアの大切な人?」

「ええ、そうよ」


 答えながら、リディアは店のドアを開ける。奥に向かって「こんにちは、師匠!」と呼びかけた。店内の整理をしていたようで、棚に向かって立って作業していたシリルが顔を向ける。


「リディア!」


 シリルはすぐにリディアに気づき、近づいてくる。


「昨日、大丈夫だったか? リディアが帰った少しあとに魔獣が出たって。どっかの魔法使いが対峙したらしいが──」

「はい、なんとか大丈夫でした」


 そのことについても話したいが、リディアはまずは心配させないようにとへらっと笑う。シリルはホッとしたように、リディアの頭を撫でた。


「……男? リディアに触った……」


 聞こえるか聞こえないかという小さな声で、レイが低い声で呟くのが聞こえた。

 シリルはリディアの背後にいるレイに目を向ける。


「そいつが、例のフォシニか?」

「はい。レイって言う名前です。レイ、こちらは私の師匠のシリル・ドレイク先生。ずっと昔からお世話になっているの」


 リディアはレイに、シリルのことを紹介する。

 グリーン子爵から勘当されたあともこうして無事に生きてこられたのは、シリルのおかげだと言っても過言ではない。行く宛がなく途方に暮れるリディアに手を差し伸べ、屋根のある住処を提供し、薬師として独り立ちできるまで面倒をみてくれたのだから。


「……へえ、そう」


 レイはなぜか、不機嫌そうに返事する。


「シリル・ドレイクだ。よろしくな」


 シリルがレイに片手を差し出す。レイはその手をちらっと見たが、すぐにぷいっと目を逸らした。

 思いがけない態度に、シリルが目を丸くする。一方、慌てたのはリディアだ。


「レイ⁉ なんて態度なの! 私の師匠なのに!」

「俺はこんなおっさんに会いたいなんて、一言も言ってない」

「レイ!」


 口論になりそうになったリディアとレイの空気を変えたのは、豪快な笑い声だ。シリルが二人を見ながら、大笑いしている。


「リディア、これはなかなか手の焼ける坊やを買ったな」

「坊やじゃない!」

「そうなのか? あんまりにも態度が幼いからてっきり十代かと思ったが……お前何歳だ?」


 シリルがレイに尋ねる。すると、レイは口ごもった。


「……知らない。生まれた年も、誕生日も」


 ずきっと胸が痛む。

 物心つく前に売られたレイが自分の歳を知らなくても無理はないし、誕生日など知る由もない。


「……レイ。実はね、師匠にはお願いがあってレイをここに連れてきたの。レイのフォシニの刻印、消さない?」


 リディアはレイに問いかける。レイは驚いたような顔をした。


「……消せるの?」

「普通はできない。だが、術者より優れた魔法使いなら解呪できる可能性がゼロではない。試してみる価値はあるはずだ」


 レイは黙り込む。


「レイ。いつも言っているけど、レイには自分のやりたいことをしながら自由に生きてほしいの。そのために、それは消そうよ」

「……うん。でも、そのおっさんはやだ」

「レイ。わがまま言わないで。私じゃ消せないから、こうしてここに連れてきたんでしょう?」


 レイはぷいっとそっぽを向く。


(困ったわ。どうしてこんなに機嫌が悪いんだろう)


 レイは飲食店の体験入店でも客に素っ気ない態度を取っていたが、ここまで酷くはなかった。レイの不機嫌な理由がわからず、リディアは困惑する。


「坊やどころか、不機嫌になって駄々をこねるガキだな」

「ガキじゃない!」

「じゃあ、お前の態度はなんだ?」


 シリルが片眉をあげると、レイは殺気立った目で彼を睨む。

 困ったリディアはレイの頬を両手で包み込み、顔を覗き込む。


「レイ、お願い。言うことを聞いて。レイが心配なの」

「……俺が心配?」

「そりゃそうよ。レイは私にとって、大切な存在だもん。あんな刻印、早く消してほしいよ」


 レイはしばらく黙り込むと、おもむろにリディアを見る。


「リディアは俺に他の人の刻印があるのが嫌なの?」

「当たり前でしょ」


 さっきからそう言っているのになぜまた聞き返してくるのかと、リディアはレイを見返す。すると、レイはなぜかふにゃりと嬉しそうに笑った。


「……じゃあ消す。俺、リディアのためならなんだってするよ」


 レイは目を細めるとリディアの手に自分の手を重ね、頬ずりする。


「……おい、リディア。こいつ本当に大丈夫なのか?」

「師匠! 酷いこと言わないでください。レイはずっとフォシニとして生きてきたから少し不安症で寂しがりやなだけで、いい子なんです!」

「いや、寂しがり屋って言うかさ──」


 シリルは何かを言いかけたが、口を閉ざす。

 そして、仕方ないなと言いたげにはあっと息を吐いた。


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