3.レイと魔法(7)
その声は穏やかなのに、リディアが拒むことを許さないような響きをはらんでいた。
リディアはこくんと唾を呑む。
「……レイ。そういう言い方は、ちょっと怖いわ」
「俺のこと怖くないって言ってた」
「レイのことは怖くないわ。言い方の問題。まるで、どこにも行かせないって言ってるみたい」
リディアが苦笑すると、レイは不満げな顔をする。
「そうだよ。リディアがいなくなるほうが、俺は怖いもん」
「……私は、どこにも行かないわよ。だから、安心して」
いつかはリディアもここを去る日が来るかもしれない。けれど、少なくともレイが自立するまではいるつもりだ。
「とにかく、レイは何も心配しなくて大丈夫」
「……うん」
「そろそろ離してくれる?」
「やだ」
「レ・イ!」
語気を強めると、レイの腕の力が緩む。
この甘えん坊でさみしがり屋なところは、いったいいつになったら治るのだろう。
リディアはようやく解放され、ふうっと息をつく。
「ところで、レイ。さっきの人に見覚えはある?」
「ううん」
レイは首を横に振る。
「正面からはっきり見たわけじゃないけど、会ったことない人だと思う」
「そう……」
リディアは考え込む。
(あの人、レイがフォシニってことや、私の名前も知ってた。どうやって調べたの?)
リディアが若い男を囲っているという噂が流れているのは知っているが、それがフォシニであることは誰にも言っていない。シリルが誰かに言うとも思えない。
ならどこから……と考え、ひとつの可能性に思い当たる。
(あっ! もしかして、セドリック様と偶然会った際に見ていた女性達?)
レイを連れているときに偶然セドリックと遭遇したことが一度だけある。
その際にレイとセドリックが小競り合いのようになり、成り行きでレイがフォシニであることも知られてしまった。その際、通行人の女性二人組が一部始終を目撃していた。
もしかしたら、彼女たちからレイのことが広がったのかもしれない。
そこに発生したのが昨日の事件。
レイが強力な魔法を使って魔獣を木っ端みじんにしたのを、多くの人々が目撃している。だから、誰かしらがリディアのフォシニがソルヴィアだと気付き、高額で購入を持ち掛けてきたのではないだろうか。
「まずいわね……」
リディアはぼそりと呟く。
もしそうであれば、今日の男以外にもレイを買いたいと近づいてくる人が現れるかもしれない。
「何がまずいの?」
レイが心配そうにリディアを見つめる。
「あ、ううん。なんでもないの!」
ハッとして、慌ててその場を取り繕う。
(レイを不安にさせてどうするの!)
迂闊だったと反省する。
リディアはこれからのことを考える。何度考えても行きつく答えは同じだ。
(レイが平穏に暮らすには、『自分自身で生きる力』を身に付ける必要があるわ)
そして、新天地で一から生活の基盤を築くのがいいだろう。ならばやるべきことはひとつだ。
「レイ。あなたに会わせたい人がいるの」
「会わせたい人?」
「ええ。私を支えてくれた、恩人よ」
リディアはにこりと微笑んだ。
次話から4章です。引き続きよろしくお願いいたします!




