4.王宮魔術師試験(6)
「長官。本日の王宮魔術師採用試験の試験報告書です」
部下が差し出した書類を、ダリウスは受け取った。
「ああ、今日でしたか」
すっかり忘れていた。長官という立場上少しは目を通したほうがいいだろうと、ダリウスはページをめくる。その手が、あるページで止まった。
「――ほう」
そこには、とても興味深い試験結果が載っていた。
「全科目満点、歴代一位の成績ですか。一撃で、上級試験官の結界を貫通? しかも、無詠唱……」
通常では考えられない結果だった。既に王宮魔術師として活躍している者が今採用試験を受けても、ここまでの成績は取れないだろう。
「試験官たちも驚いておりました」
「名前は……レイ? 聞いたことがありませんね」
魔法使いの適性がある者は、圧倒的に貴族出身者に多いが、名字がないこの若者は平民なのだろう。
ただ、平民であろうと優れた魔法使いの適性がある時点で何かしら噂になるものだ。一度も名前を聞いたことがないというのは奇妙だった。
(本名ではないのか?)
ダリウスの視線が、鋭くなる。
「とても興味深い受験生ですね。是非直接会ってみたいので、ここに連れてきてもらえますか?」
「それが、試験合格にもかかわらず、内定を辞退してしまいまして」
部下は申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「辞退?」
ダリウスは眉を寄せる。彼らは王宮魔術師になるために採用試験を受けているはず。それなのに、辞退というのは解せない。
「理由は?」
「一緒に受けた応募者が落ちたので、自分も辞退すると──」
「一緒に受けた応募者?」
「はい。こちらはリディア・グリーン。グリーン子爵家のご息女です」
「グリーン子爵家ですか」
グリーン子爵家は、有能な魔術師を輩出することで有名な名家だ。ただ、そこの娘はグリーン子爵から勘当されていると記憶している。グリーン子爵が以前「親の言うことを聞かないとんでもない娘で──」と憤慨しているのを見かけたことがある。
「確か彼女は──」
先日、結界が揺らいで街中に魔獣が現れるという事件が起きた。その際に魔獣を退治した魔法使いがリディア・グリーンのフォシニらしいという情報は、ダリウスにも入っていた。
王宮魔術師並みの強さだったという目撃情報はさすがにでたらめだと思ったが、魔法を使えるフォシニということは魔力を自己生成できるソルヴィアだ。
そこで希少なソルヴィアを是非ともこちらに引き入れたいと思い人を送って大金をちらつかせたが、彼女は決して自分のフォシニを売らなかったという。
(つまり、そのフォシニがレイという男というわけか)
ダリウスは考える。
「リディア・グリーンはあと少しで受かるレベルでしたか?」
「いいえ。フォシニから魔力を貰わずに参加したようでして、魔法を全く使えていませんでした。全応募者中最下位です」
「それも奇妙ですね」
王宮魔術師の採用試験ならば、魔法の実技があることは当然予想できるはず。それなのにフォシニから魔力を貰わずに参加するなど、はなから受かろうという気がないとしか思えなかった。
考えられるのは自分のフォシニを王宮魔術師にしようとしたということだが、肝心の男は受かったのに採用を辞退している。やっていることがちぐはぐだ。
ダリウスはゆっくりと宙に視線を投げる。
「非常に興味深い」
一体なんのつもりで、彼らはそんなことをしたのだろうか。
「調べてください」
「……はい?」
「採用辞退した男の素性と、リディア・グリーンとの関係性を。徹底的に、ですよ?」
部下は一瞬だけ戸惑った表情を見せたが、すぐに頭を下げる。
「承知しました」
部下が退室し、扉が閉まる。
ひとりになったダリウスは、再び書類に視線を落とした。
次話から5章に入ります。そろそろ折り返しです。引き続きよろしくお願いいたします!




