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無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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3.レイと魔法(3)

「なぜそんなことを聞く?」

「実は、成り行きでフォシニを購入してしまいまして。彼には前の主人の刻印が着いたままなんです。でも、その前の主人がとんでもなく酷い奴みたいなので刻印も消してあげたいなって──」


 リディアはここ1ヶ月で起きたことをシリルに話す。


「なるほど……」


 話を聞き終えたシリルは腕を組む。


「実は先日、リディアの噂話を聞いた。若い男を囲っていると」

「はは……」


 リディアは苦笑いする。

 落ちこぼれ魔女と言われているくらいだから陰口は慣れっこだが、またかとうんざるする。誰かがリディアとレイが一緒にいるところを見て、勝手なことを吹聴したのだろう。


「あのクズな元婚約者にも天罰が下ったし、ようやくリディアにも春が来たのかと思ったのに」

「残念ですが、レイとはそういう関係ではありません」


 リディアがぴしゃりと否定すると、シリルは残念そうに眉尻を下げた。自惚れでなく、彼はリディアを実の妹のように心配してくれているのだ。


「本題だが、フォシニの刻印を消すには通常、そのフォシニの主人自身が解約の術をかける必要がある」

「はい」


 リディアは頷く。

 それは、リディアも知っている。


 フォシニの契約は主人自らが解約の術をかけるか、主人が死ななければ解約できない。だから、レイは昔の主人が現れたらまた魔力を奪われてしまうかもしれないのだ。


「ただ、方法がないこともない」

「本当ですか!?」


 リディアは目を輝かせる。


「そのフォシニの主人より優れた術者が、解約の魔法を強制的にかけることだ」

「なるほど!」


 それなら、何とかなるかもしれないと思った。

 なぜなら、リディアの師匠であるシリルは元王宮魔術師。この国でも指折りの魔法使いなのだ。


「その……師匠! お願いできないですか?」

「高くつくぞ?」

「うっ! 今懐が寂しいので、肩もみ一時間でどうでしょう?」

「リディアに肩を揉んでもらえるなんて光栄だな」


 シリルはけらけらと笑う。


「で、そのフォシニはどこにいる? 家か?」

「一人立ちできるように、お仕事体験に行ってもらってます」

「お仕事体験?」

「はい。町のカフェで」


 リディアは頷く。


「なるほど。カフェなら服がはだける心配はないから、フォシニだと気付かれることもないだろう。あとで、そのフォシニをここに連れてきなさい」

「分かりました」


 リディアは時計を見る。レイと別れてから2時間が経過している。そろそろ戻ったほうがいいかもしれないと思う。


「では、次回はレイも一緒に来ますね」

「ああ」


 リディアは軽く会釈すると、店を出ようとする。その時、「リディア」とシリルに呼び止められた。


「ここ最近、結界が揺らいでいる。何もないとは思うが、念のため気を付けなさい」

「結界が?」


 いつも楽観的でおおらかなシリルには珍しく、その表情は険しかった。

 結界とは、人が居住するエリアに魔獣──すなわち、魔力を持った獣が侵入するのを防止するための防御壁で、結界を維持するのは王宮魔術師達の役目だ。


「わかりました。でも、どうしたんでしょうね? これまでそんなこと一度もなかったのに」

「さあな。王宮魔術師のやつらがサボってるんじゃないか?」


 シリルは両手のひらを天井に向けて、肩をすくめた。



 リディアはシリルの何でも屋を出ると、まっすぐにレイのいるカフェへと向かった。


「どれどれ。レイはいるかな?」


 大通りからそっと中を覗くと、レイはすぐに見つかった。


「……何あれ。宣伝用のモデル?」


 思わずそんな言葉が口から漏れてしまうほど、カフェの制服が似合っている。パリッとアイロンの効いたシャツに蝶ネクタイを付けた姿が、憎らしいほど様になっていた。


「ねえ。レイ君は次のシフトいつなの?」

「知らない」

「レイ君のお勧めはどれ?」

「別にないけど」

「レイ君。このあと遊びに行かない?」

「行かない」


 次々と女性ばかりに声をかけられているが、全てに対してびっくりするくらい塩対応だ。しかし、声をかける女性達は全く気分を害するようすもなく、きゃあきゃあ言っている。


(これも最高のビジュのなせる技なの?)


 恐るべし、イケメンパワー。これを別の新人がやろうものならたちまち苦情になりそうだが。


(もう少しで終わりそうだし、表で待ってようかな)


 リディアは通り沿いに置かれたベンチに座り、本を読みながらレイの仕事が終わるのを待つ。

 ページをめくったタイミングで、ふと影が差した。


「雲が出てきたのかな?」


 見上げると、雲はないのに空は濁った灰色をしている。単に曇っているのとは明らかに違う様子に、リディアは眉を顰める。


「師匠の言う通り、結界が揺らいでいる?」


 リディアは魔力がないのでほとんど魔法を使うことができないが、魔法に関する教育はひと通り受けた。グリーン子爵が、いつかはリディアがフォシニを持つはずだと信じて受けさせたのだ。


 結界はしっかりと機能していると、無色透明で見た目では結界があるとわからないほど周囲に溶け込む。こんなふうに濁るのは、揺らいでいる証拠だ。


 ちなみに、シリルとの出会いは、リディアの家庭教師が急な体調不良で急遽代行を引き受けてくれたのがきっかけだった。


 グリーン子爵は『平民を代理で寄越すとは』と激怒していたが、リディアはひと目でシリルを気に入った。

 もう、十五年くらい前のことだ。 


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