第98話 知夏_名前のない関係に値段をつけて
「大丈夫、贅沢貯金を使っているから」
「贅沢貯金?」
「あ、俺、貯金を3つにわけてて、メインと、サブと贅沢。贅沢貯金は自分自身のために使ってもいいルール」
「堅実だね。サブは何に使うの?」
「サブはケガとか病気とか急に出費が必要になった時用かな。メインは将来のことを考えてある程度、溜まるまでは手を付けないようにしてる」
私は微笑んだ。心配していたよりずっと金銭感覚がしっかりしている。
「それにボーナスがでたから。俺が働いてる会社、ボーナスは結構いいんだ」
「ボーナスあるの、いいね」
「だから、お金のことは大丈夫。自分のわがままに使ってもいいお金を使っているから気にしないで」
自分のわがまま。そこに優太さん自身の自己評価が透けて見えるようだった。彼女がいるのにその子とセックスができないから、他の女で性欲を解消しようとする行為を優太さんは『わがまま』と考えているのだ。
「だったら、心置きなく頂戴します」
私は金魚柄の封筒を両手で軽く掲げ、頭を下げた。バックの内側についているチャック付きのポケットにしっかりしまうと、優太さんに向かって両手を広げた。
「…?」
首を傾げる優太さんに向かってさらに距離を詰めて両手を広げた。しばらくして理解したように、あ、と言って両手を広げてお互いハグをした。
「言ってよ」
「いや、わかってくれると思って」
笑ったのだろう。私の頭に顔を埋めている優太さんからかすかに吐息が漏れた。優太さんの胸板に押し付けていた顔を上げると、少し背伸びしてそっとキスをした。すぐに優太さんはそっと私の顔に手を添えてキスを返してくる。
お互い軽いキスを繰り返しているうちに、優太さんの舌が私の唇を割って控えめに割り込んでくると、徐々に深さを増していく。優太さんの手が私のスカートをたくし上げて太ももから次第にお尻に向かってきたところで、私はそっとその手を押しとどめて顔を離した。
「先にシャワー浴びないと」
少し潤んだ相手の目をみて言うと、ソファーを立ち上がって優太さんの手を引っ張った。
「一緒に入る?それとも別々がいい?」
「別々で…」
バスタオルを手渡すと、じゃあお先に、と律儀にお辞儀してからバスルームへ向かう背中を見送った。
掛布団を足元の方にまとめ、部屋の照明を暗くすると、部屋の温度を2度だけ上げる。服を着た状態で涼しく感じるくらいの温度だから、裸になったら少し肌寒い。
優太さんと入れ替えにシャワーを浴び終えると、初回の時と同様にベットの端っこでちょこんと座っている姿が目に入り思わず笑った。
「ベットでゴロゴロしていてもいいんだよ?」
「いや、どうやって待っていたらいいのかわからなくて」
苦笑いをする優太さんを掛布団で覆いながら一緒にベットに横になった。私は珍しく緊張した。
体に巻いていたバスタオルをはぎ取って、優太さんに抱き着くとすぐに抱きしめ返してくれた。しばらく私の頭をなでていた手が背中から腰に移り、お互いキスを繰り返す。初回の時とは打って変わって、攻めの姿勢を見せてくれるので私はおとなしく相手に身を委ねた。




