第97話 知夏_商売じゃない優しさ
この誠実そうで真面目な青年が20代という若さにして風俗にのめり込むようなことがあってはならない。一か月の間に3回も指名してくれたことは、本当に有難いことだと心から感謝している。
しかし、お店の利用料に加え、ホテル代、飲食代を全て合計すれば余裕で旅行に行けるくらいのまとまった金額になる。一般的企業に勤めている会社員の感覚からすれば、結構な出費になるはずだ。余計なお世話かもしれないが、どうしても相手の懐具合を心配してしまう。
「よかったらちょっと座らない?」
私はソファーに座ると隣を手でポンポンと叩いた。優太さんが腰掛けると私は体ごと優太さんに向き直った。
「お金、ありがとうございます。お気持ちは喜んで受け取りたいと思います」
畏まって話す私にほっとした表情を見せる優太さん。余計なことだとは思いつつも、思い切って本音を伝えた。
「わかってるとは思うけど、私と一緒に寝てもたぶん、優太さんが抱えている問題の根本的な解決にはならないと思う」
「…それは、理解してる。理解したうえで来てるから大丈夫」
ゆっくり頷きながら答えた優太さんに私も頷き返した。
「それとすっごく余計なお世話だとは思うんだけど、今月中に3回も指名してもらえてすごく嬉しい。だけど、20代の会社員の給与からすると結構な出費になるよね?」
相手の表情を確認したが、彼はいまいち分かっていなさそうな顔をしている。
「えっと、何が言いたいかというと貯金を切り崩してまで、風俗にくることはお勧めできない。私がお客様の懐具合に口を出すのは失礼なことなんだけど、どうしても気になったというか…、会社からの給与以外にも収入があって余裕があるなら全然いいと思うんだけど」
余計なお世話でごめんね、と謝ると驚いたような顔で優太さんが言った。
「俺の財布事情を心配してくれているの?」
私が頷くと口元に手を当てながら何か考え込んでいる様子だ。言わなければ良かっただろうか、そう後悔した矢先、優太さんは笑い出した。
「いや、ごめん。なんか、ほんとうに風俗嬢のイメージと全然違うな、と思ってさ。よく風俗にいく同期のやつから色々話を聞くんだけど、そんなところまで気を回してくれるなんて、優しいな、と思って」
「その同期って大和さん?」
「そうそう。よく覚えているね」
「女の子を掛け持ちしている人でしょ。面白すぎて覚えた」
一緒に飲みに行った時に優太さんから聞いた女遊びが激しい同期の話は、笑いが絶えなかった。そのことを思い出して少し笑った。
「確かに、会社員からするとここのお店は少し高いよね。でも、俺、家賃ほぼ無いから少し余裕があるんだ」
「実家暮らし?」
「いや、実家は新潟だから今は北千住で一人暮らししてる。親戚が不動産もっているから、そこの1室をタダ同然で貸してもらってるんだよ」
北千住と聞いて私は危うく、家が近いね、と言いそうになった。私が住んでいる西日暮里駅からは2駅しか離れていない。
「家賃がかからない、っていいね」
しかし、家賃がかからないと言っても会社員の一人暮らしなら、どんなに高く見積もっても10万前後しか浮かないのではないだろうか。
私の疑念に気づいたのだろう。優太さんが笑いながら言った。




