第96話 知夏_人妻じゃなく、恋人として
約束通り優太さんは再び予約をしてくれた。7月最後の土曜日、渋谷で朝の10時から3時間コース。
本指名として予約された嬉しさもあるが、それ以上に期待に応えられるか緊張感が高まった。今まで色んなお客様に指名して頂き、色んな悩みや話を聞いてきた。
しかし、彼が話してくれた悩みは私を抱けば解決する、という単純なものではないだけに、どれだけ彼の心に寄り添えるかが腕の見せ所だ。
約束時間の10分前に待ち合わせ場所近くに到着したたが、すでに優太さんは待っていた。結構早めに来たつもりだったのだが、いったい何分前に来ているのだろう?
私は優太さんの携帯に非通知で電話をかけ、手を振りながら近づいた。
「おはよう。待たせてごめんね」
「おはよ。そんなに待ってないよ」
お互い微笑みなあった時に私はあることに気づいた。
「あはは、優太さん見て。お揃い」
優太さんと私の服装を指で交互に指で示した。
最初にあった時にシンプルなシャツにチノパンを履いていたので、私は白のノースリーブのトップスにベージュ色の長めのスカートを着てきたら、まさかの色味が揃ったのだ。
「前もその服着てたよね」
「そうだね。あ、別にこの服しか持ってない、ってわけではないからね?」
「ふふ、わかってるよ」
日 傘をさすと、そっと優太さんの手を握った。見上げれば照れくさそうに笑いながら手を握り返してくる。そのままホテル街に向かいながら他愛のない話を続けた。
私はホテルの外でお客様と腕を組んだり手をつないだことは、一度だってしたことがない。理由はいくつかあるが、まず料金が発生するタイミングがホテルに入室してからになる。
つまり移動中は人妻として演じる必要があるにも関わらず無給なのだ。そして年が離れているおじ様と手をつないで歩くことへの抵抗感が、風俗嬢の仕事に慣れた今でも拭えなかった。
優太さんの目的はもちろん性欲の解消だろうが、抜いて、ハイ、終わり、といったドライなやり方ではおそらく満足できないタイプだろう。性欲の解消はあくまでも手段であって、おそらく寂しさや人肌の恋しさなどが常に付きまとっているからこそ、心を満たしたいと思っているのではないだろうか。
優太さんを少しでも満足させるためには、私は人妻という役割ではなく恋人としての役割に徹した方が良いと考えた。そしてホテルの外で年齢が近い男性と手をつなぐことに全く抵抗感はない。
初めて会った時に利用したホテルに足を踏み入れ、部屋に入室すると前回とは異なりシックな印象の部屋だった。ホテル名と部屋番号をラインで店長に報告すると、直ぐに本日のコースと料金が送られてきた。すかさず優太さんが鞄からお金の入った封筒を差し出してくる。今回はかわいらしい金魚が泳いでいる絵柄の封筒だ。
「毎回封筒の柄が違うよね。集めるの好きなの?」
お礼を言いながら封筒の中身を確認するためにお金を数えた。1万円多い…。
「あの、もし、よかったらでいいので…」
私が口を開く前に優太さんが言った。
「ダメだったらその時に言って欲しい。ダメでもOKでも受けとって欲しい」
私としては構わないが、ゆずさんの代わりに抱いたところで余計に虚しく感じてしまうのでは、と思う反面、優太さんはスッキリできるし私は稼げて一石二鳥じゃん、という意見が私のなかで目まぐるしく入れ替わり顔を覗かせた。




