第92話 優太_浮気じゃないと言い聞かせて
6時に起きると運動着に着替えて、軽くストレッチを行い自宅の目の前にある荒川の土手をランニングする。7月の半ばをすぎ日中は真夏日が続いているが、この時間帯はまだ過ごしやすい風が吹いている。1時間弱走ると河川敷で軽くストレッチを行い、自宅でシャワーを浴びた。
8時頃に炊き上がるように昨日のうちにセットしといたお米が炊き上がり、いい匂いがリビングを満たしていく。お湯を沸かしている間に、プロテイン用のシェイカーを上下に振り、喉を鳴らして飲んだ。
先週の土曜日に莉奈さんから頂いたお茶漬けを箱から取り出す。花の形をした最中をどんぶりに盛ったご飯の上に置き、お湯を注ぐ。蓮華で最中をつぶすと、中から梅の良い香りがした。
食べながら、もしかしてさっきのつぶした花の形をした最中は梅の花だったのではないか、と思い当たる。
食べ終えるとすぐに食器を洗い、身支度を整えた。自転車にまたがり北千住駅まで向かう。千代田線で表参道駅まで向かい、銀座線で渋谷駅に降りた。
渋谷駅からマークシティの中を通って、待ち合わせ場所である道玄坂の上の交番方面に向かった。
なるべく直射日光が当たらない道のりを選んだおかげで、あまり汗をかくこともなく待ち合わせ場所に着く。
待ち合わせ時間までまだ15分ある。ビルの日陰に入り、ガラスに映った自分を眺めた。もうちょっとオシャレな恰好をと思ったが、そもそもなにがオシャレなのかわからず、結局普段通りの格好で来てしまった。
5分ほど経った頃に、紺色の日傘をさした莉奈さんが横断歩道を渡ってこちら側にやってくるのが見えた。
「おはようございます。お待たせしてすみません。」
「あ、おはようございます。早くきすぎちゃってすみません。」
お互いペコペコと会釈をし合い、莉奈さんは日傘を畳むと急に、あははと笑い出した。
「優太さん見て。お揃いです。」
莉奈さんはお互いの服を交互に指さした。莉奈さんは白のノースリーブにベージュのスカートをはいている。靴は前回と同じ黄色いサンダルだ。
「前もその服着ていましたよね。」
「あ、そういえばそうですね。あ、別にこの服しか持ってないってわけではないですよ?」
やっぱり新しい服を買いに行こう。先週と全く同じ格好をしていることに言われて初めて気づく。…恥ずかしい。
「ふふ、わかってます」
笑いながら再び日傘をさすと、莉奈さんは俺の手を握った。俺はドキドキしながら彼女の手を握り返した。
前に利用したホテルに入ると、莉奈さんはお店に電話をかけた。この瞬間がどうしようもなく、彼女が風俗嬢であることを意識させる。
莉奈さんが電話を切ると、俺は緊張しながら鞄からお金を入れた封筒を取り出して手渡した。受け取ってくれるだろうか…。




