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第91話 知夏_正解のない恋について

 優太さんから受け取ったお金を清算するために、事務所に戻る途中でノンセクシュアルとアセクシャルの違いについて検索した。性欲を感じない、もしくは性欲があまりない、という点では共通しているが恋愛感情の有無で呼び方を変えるそうだ。優太さんの彼女であるゆずさんは、おそらくノンセクシャルに当てはまるタイプなんだろう。

 私のように性別問わずに性的な魅力を感じるバイとは正反対のタイプの人たちだ。人肌が恋しいという、あの渇望じみた苦しさがそもそも無いとしたら羨ましくも思えた。

 私は生まれた時から男女の区別なく恋心を抱いてきた。私にとってはそれが普通のことだが、周りの同年代の友人が異性への恋バナで盛り上がるのを日常的に聞いていたので、異性を好きになるのと同じくらい同性のことも好きになることは言わない方が良いんだろうな、と思っていた。

 私の幼少期は異性よりも同性にひかれることの方が多く、気になる女の子の前では良くドキドキしたものである。同じように男の子を好きになることもあったが明確に違いがあった。それは男の子に対してはライク、女の子に対してはラブ、の違いである。

 私は小学校、中学校、高校と学校が変わるたびに違う女の子を好きになり、ひたすら片思いし続けた。男性に淡い恋心を抱く瞬間もあったが、それはすぐに割れて無くなるシャボン玉のように、あっという間に消えてしまう。

 しかし、女性への恋心は私の中にしっかりと根を張る。好きな同級生が好きな人の話をするたびに、私は一番仲が良い友人という立場で話を聞き、時にはアドバイスをし、家に帰れば悲しくてシクシク泣いていた。だが、私は好きな女子生徒にとって一番身近な人物になりたいがために、ひたすら良い友人役を演じていた。

 私の片思い期間はだいたい2~3年続き、卒業と同時に実ることのない恋に終止符を打った。

 高校3年生になる頃には、同性ばかりに思いを募らせてしまう自分はレズビアンなのでは、と思い始めた。当時の私は普通の人のように結婚して家庭を持つことができないと考えており、それが最大の悩みだった。

 大学にあがり女性を好きになるのと同じくらいの熱量で想いを寄せられる男性を見つけた時には、嬉しさのあまりホッとして泣いたものだ。私はレズビアンじゃなくてバイセクシャルだった。これで私も普通の人々と同じように結婚して家庭を持つことができる、と。

 私は個性的な人間でありたいと思う反面、多くの人が歩むような人生を歩むべきだと当時は考えていた。しかし、多様性という言葉がメディアで目立つようになり、SNSの発達のおかげで様々な人が情報発信をしてくれるようになったおかげで学生の時ほど、世の中の多くの人が歩むオーソドックスな人生を強く望むことはなくなった。

 今まで好きになった女性へ、ついに自分の気持ちを一度も伝えることなく終わった。私はそれぞれの結婚式に参列した時、祝福の気持ちを述べながらも、ゴールすることのない同性への恋に虚しさを覚え、そして疲労を感じた。異性を好きになったほうが、とんとん拍子で物事が上手くいく。

 私は友人の絵麻にラインを送った。

「今日、若いお客様が来たよ。私と同い年」

『イケメン?』

「だいぶ」

『お金もらえてイケメンとやれるなんてラッキー!って思ってるでしょ』

「失礼な 笑」

 絵麻の明け透けな言い方に思わず笑った。

「そのお客様の彼女さん、性欲がないタイプらしくてお店に来たんだって」

『それってノンセクシュアルのこと?』

「そういうの詳しい?」

『別に詳しくはないけど、友達でそういう子がいるから』

「そうなんだ。性欲が無いってどんな感じなのかしら?」

『私も性欲があるからよくわからん。でもベタベタ触られるのは嫌いって言ってたような気がする。人によって線引きは違うんじゃない』

 私はゆずさんのことを話していた優太さんのことを思いだした。好きな人に触れられない、その辛さはよくわかる。状況は違えど同性を好きになった時、相手に触れないようにとにかく意識をしてきた。

 それは、女同士のいちゃつきとは別の意味を持つだけに、気安く触ってはいけないような気がしたのだ。

 性欲がない人とある人が付き合うのはミスマッチではないのか。どちらも苦しくないか。しかし、それは外野の意見で、当事者同士はもっと別の価値観で生きているのかもしれない。

 あれこれと思いをめぐらしても、正解に辿り着けるわけではない。きっとノンセクシュアルの人と対面しても頭で理解はできても心では理解することは難しいのだろうか、と思う。どんなに考えたところで結局のところ想像でしかない。

 もし優太さんが我慢に我慢を重ねて、ついに風俗を利用せざる負えない状況になるまで自分を追い込むタイプではなく、もっと気楽に女遊びをし、つまみ食い感覚で風俗を利用する人だったら事はもっと単純だったのかもしれない。

 しかし、彼と話してみて、割り切った気持ちで行動を起こせないタイプだけに、しんどかっただろうな、と思う。次に指名を受けた時には、少しでもその辛さが和らぐように尽くしたい。

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