第88話 知夏_彼女だけに向ける想い
黙ってしまった私に優太は苦笑いしながら言った。
「実は千早に、あー、同期のやつに彼女とレスの人がいて、実は俺もって話をしたら、風俗を勧められて。彼女との関係を円滑にするために、他の女性の手を借りるのもアリだって。風俗なら浮気にはならない、って言われて、それで色々探したらこのお店を見つけたんだよ」
誠実だな。そういう理由で風俗に来る人に対して私は心から敬意を払う。
ぜならマインドが自分自身ではなく、大切に扱うべき他者に向いていると思うからだ。自分の大事な人との関係を良好に保つために、わざわざお金を払って処理をする。
彼くらいのスペックなら、クラブやアプリで簡単に処理のはけ口を見つけることくらい、いくらだってできるだろうに。
風俗に行く男性に対して浮気、と責める女性ならではの気持ちは分かる。でも、責める前にどうしてそれを必要としたのか、理解に努めてもいいのではないか、とこの仕事をして思うようになった。
黙って頷く私を見ながら優太さんは続けた。
「だから、ただ、ハグだけでも十分だなって思ったんだ。それで、年上の人なら話をした上で受け止めてくれるかな、と思って人妻店を選んだんだよ。まさか同い年の人が来るとは思わなかった」
あはは、と笑う彼に思わず目を伏せて「ごめん」と謝った。そんな私の顔を覗き込むようにして、優太さんが言った。
「いや、莉奈さんが来てくれてラッキーだな、って思ってる。俺、彼女がそういうタイプだってこと、初めて人に話せたよ。少し、気持ちが楽になった」
ありがとう、という優太さんに私の方こそお礼を言いたい。
「こちらこそ、話してくれてありがとう」
私が今まで出会った人たちの中で自分の欲望を抑え込んででも、相手の意向に沿ってプラトニックラブの関係を築く人たちは、皆、優しく繊細で、それでいて誠実であろうと努力していると思う。
しかし、そういうお客様に対して心を満たすプレイを提供する自信はなかった。
なぜなら、そのようなお客様の心は常に一番望んでいる彼女・奥さんに向いており、身体はスッキリできても、虚しさが拭えない。だから、私の本指名になった人は1人もいない。
プラトニックラブを育んでおり、真面目であれば真面目であるほど、風俗嬢にすら情を寄せることに罪悪感を感じてしまう、そんな人の心を満たすことができるのは私のようなプロではなく、その方の彼女や奥さんに他ならない。
「ちなみにソープを利用しようと思わなかったの?」
「いや、あんまり考えてなかったかな」
「どうして?ソープなら確実にやれるよ」
「莉奈さんだから言うけど、実は俺、情けないことに遅漏気味なうえにちょっとでも緊張すると本当に役に立たないから…」
「え、それって別に情けないことじゃないと思うよ」
「そうかな」
「そうだよ」
私は自信を持って肯定した。時間がかかる人はその分、繊細なだけ、と個人的には思っている。
「彼女さん、ってどんな人?」
私は彼のことをもっと知りたくなった。ここまで大切に思われている女性とはどんな人なんだろう。




