第80話 優太_カクテル越しの会話
追加の料理とドリンクがテーブルに並べられ、まぁまぁ胃袋が満たされる頃には当初の緊張感は消え、笑いながら会話を楽しんでいた。莉奈さんは良く笑い良く話す。女性とこんなに開放的な気持ちで心が弾みながら話したのは久々だ。
「そういえばシラカワって、ご本名なんですか?」
きれいな青色のノンアルコールカクテルをストローで混ぜながら莉奈さんが聞いてきた。俺は「白川優太」と空中に指で書きながら本名を伝えた。
「あの、莉奈さんも本名なんですか?」
「源氏名ですよ」
俺の質問がよっぽどおかしかったのだろうか。ケラケラ笑っている。
「あ、やっぱそうですよね。ちなみに本当のお名前って…?」
興味本位で聞くと、ちょっと困った顔をして肩をすくめた莉奈さんを見て、しまった、と後悔した。本名を聞くのはマナー違反だったか。
しかし、莉奈さんは気を悪くした風もなく、「ちなみに、なんて呼んだらいいですか?」と聞いてきたので、優太でお願いしますと答えた。
「優太さんですね。承知いたしましたっ」
ふざけた様子で敬礼している。わざと場を和ませてくれたその気遣いに、優しい人だな、と思う。俺はもう少し気になったことを聞いてみることにした。
「あの、莉奈さんはどうしてあのお店で働いているんですか?」
「セキュリティがしっかりしているからです」
「セキュリティ?」
莉奈さんは客がお店を利用する上で、携帯の番号の登録が必須なので何かあった時に安心だ、と説明した。俺は素直に、正直なところ携帯の登録には抵抗があったことを言うと、笑いながら携帯の番号を登録することを嫌がる客は多いことを教えてくれた。
なるほど。昔、大和と利用した風俗店は、○○ホテルの○○号室、と伝えるだけで対応してくれた。お店によってセキュリティ面は様々なんだろう。
それにしても、すごく話しやすくて一緒にいて楽しい。この人なら俺のことを受け止めてくれるんじゃないかと期待してしまう。
ウェイターに追加のドリンクをそれぞれ頼み、窓の外をみるとあっという間に夕方の空が広がっている。ちらりと横目で莉奈さんを伺う。顔だけみればきれいな人だなと思うが、小柄なせいだろうか、笑った時の顔や仕草が可愛らしい人だなと思う。
もし、セックスするとしたら莉奈さんのような人がいい。ネットで追加料金を出して交渉すればできる、という記事を読んだことがある。千早も交渉次第とこの前言っていた。しかし、何と切り出せばよいものか…。
「お水も頼みましょうか?」
心配そうな顔で莉奈さんが覗き込んでいる。
「あ、いや、全然大丈夫です」
しまった。考え込んでいた。




