第73話 優太_リベンジの再予約
『シラカワ様、大変申し訳ございません。ご予約いただいていたお日にちなんですが、莉奈さんが女性の日になってしまいまして』
女性の日…?
突然、予約していた風俗店から電話がかかり、外出中でよかった、と胸をなでおろす。
『そのためホテルでのお待ち合わせができなんですが』
そこでやっと女性の日というのが生理であることに気づいた。
『お食事等でしたら可能ですが、いかがいたしましょうか。』
リベンジと思って一昨日電話で予約したばかりなので、内心ガッカリする。
しかし、せっかく予約したのだからキャンセルにするのももったいない。できればゆっくりと彼女と話がしてみたい。
「…お食事というのは居酒屋とかでも大丈夫でしょうか。」
『もちろんでございます。予約時間はそのままで宜しいでしょうか』
一昨日に予約した時にも感じたことだが、このお店の店長、言い方は丁寧だが電話越しに感じる圧がギラギラした営業マンって感じがする。
「あ、じゃあ16時から3時間って可能ですか」
『16時から180分コースですね。ありがとうございますっ。莉奈さんに確認してすぐに折り返しますのでお待ちください』
店長はありがとうございます、の『あ』の部分に力をいれて言うと電話を切った。
電話が切れた携帯を見つめながら、息を吐く。気づかないうちに緊張していたらしい。
「よっ」
不意に肩を叩かれて、うわっ!と大きな声を出してしまった。道行く人が何事かと振り返る。叩かれた肩越しに振り返ると、千早が目を丸くして立っていた。
「そんなにびっくりするとは。ごめんよ」
片手で手刀を切っている。そしてニヤニヤ笑いだした。
「わざと聞き耳たててたわけじゃないよ?優太も営業帰りかと思って、帰り道でもお客様と電話か~熱心だなと思っていたら、優太の方がお客様でしたか」
…ほんとこいつは。なんでこんなにカンがいいんだ。
俺は顔が赤くなるのを感じてわざとしかめっ面を作った。
「ごめん、1杯おごるから今夜飲みに行こ?」
「なんでこの時間帯に広報部のやつが会社の外にいるんだよ」
俺は誘いにわざと応えなかった。
「映像会社とCMの打ち合わせ」
「テレビの?」
「いや、そこまでうちの会社、広告費の予算無いから。SNSとかで流すやつだよ」
軽く笑いながら千早が答えた時に、手の中の携帯が震えだした。俺ははっとして画面をみると、先ほど話した店からの着信である。え、折り返し早くね?
慌てて片手でシッシッと千早を追い払うと、心得ていますよ、と言わんばかりの顔をして俺から少し離れた。さらに今いる場所から数歩離れて距離を置く。
「もしもし」
電話に出ると威勢のいい店長のだみ声が降りかかってきた。
『シラカワ様、お待たせいたしましたっ。7月12日土曜日、16時から莉奈さんのご予約可能です』
「あ、わかりました。お店はいつまでに決めればいいですか?」
『当日、莉奈さんと待ち合わせ頂いた時に莉奈さんにお伝え頂いても構いませんし、あらかじめ指定したお店でお待ち合わせして頂いても構いません。」
「じゃあ、前日までにお店決めて連絡するので、お店で待ち合わせでお願いします」
『かしこまりました。この度はご予約頂きありがとうございますっ。夢のようなお時間をお過ごしくださいませ。』
またもやありがとうございますの『あ』の部分に力を入れると店長からの電話が切れた。この言い方、癖なのかな。
千早の方を振り返ると、口をパクパクさせている。どうやら、終わった?と聞いてるようだ。携帯をしまうと歩き出した俺に駆け足で近寄った千早が楽しそうに言った。
「今日、定時で上がって飲みにいこ。」
「いいけど」
何だかんだで話を聞いてもらいたい気持ちがあったのかもしれない。俺は千早の誘いを承諾した。会社の入り口の自動ドアをくぐると、ホールでエレベーター待ちをしている圭介を見つけた。
「お、圭介!今日一緒に飲みに行かない?」
圭介を見つけるや否や、上機嫌に声をかけている千早の後についていく。
「いいね!行こ行こ」
無邪気に答える圭介に、この上なく愉快そうな顔をして千早が言った。
「優太の武勇伝聞きに行こうぜ」
…やっぱり今日は帰りたい




