第72話 知夏_失敗から始まる、特別な予約
今日はついていない。本日は2名の新規のお客様に指名されたがその内一人は、人妻を犯したい、と下着を思いっきり引っ張てくるド変態野郎、もう1人は本番行為への誘い方が「俺、無精子症だから中に出しても妊娠しないよ。だからいい?」と、今までの人生の中で最高にキモイ誘い方をしてくるカス野郎だった。
この誘い文句で相手の女性がOKするとでも思っているのだろうか。なんておめでたい頭をしているんだろう。当然、本番行為はお断りして、相手と解散するなり店長に連絡してNG指定にした。これでもう二度と会うこともあるまい。
どっと疲れを感じながら事務所に戻ると、藤本店長が上機嫌で振り返った。
「さすが莉奈さん!本指名返すのが早いねぇ!」
「あ、どうも」
いったい誰からの指名なのか聞くと、一昨日、来店したシラカワさんだという。絶対に本指名で帰ってくることはないと確信していたので驚きを通り越して、疑問で頭の中がいっぱいになった。
「今週の土曜日も出勤だよね?16時から3時間でリクエスト予約したいって。予約とって大丈夫?」
お店のシステム上、公開できる出勤予定日は週3日までと決まっているが、3日間連続して出勤する場合は、2日間までのスケジュール公開というルールが存在する。あくまでも家庭や仕事をこなしている主婦であり、お店にはたまに出勤している体を演出するためである。
私はほぼ週5~6日出勤しているので、公開されている私の出勤予定表は2日間しか表示されない。つまり今日と明日が常に出勤予定日として公開されているので、常連のお客様からリクエスト予約の電話が良くかかってくる。
3時間コースは90分コースの指名を2本とるより精神的にも体力的にもコスパが良い。前回の失態も含めて挽回のチャンスだと思った。
「リクエスト予約、大丈夫です。よろしくお伝え下さい。」
そう答えると店長は嬉々としてシラカワさんに電話を掛け、リクエスト予約を承った旨の連絡をした。
しかしリクエスト予約を承った2日後に生理が来てしまったのだ。間の悪いことに予定より1週間早い。土曜日は生理4日目にあたるためベッドプレイはできない。
私は店長に生理が来てしまった旨を伝え、予約しているお客様にキャンセルの電話をしてもらった。毎月来るものだから仕方ないとはいえ、せっかく予約してくれたものをキャンセルにしてしまうのは申し訳ない。
「土曜日の16時から予約していたお客様が、ホテルに行かなくていいから一緒に食事したい、って言ってるんだけど、どうする?」
「え?マジですか?」
常連客の中には生理が来てしまったらホテルではなく、一緒にランチを楽しむ方向性にシフトする方が何人かいるが、いずれも中高年で収入に余裕がある方ばかりだ。
年配の男性が若い女性を連れて歩くことは高収入を誇示する行いの一種でもあり、その時の私はお客様のステータスを証明するアクセサリーだ。
そして、遊びなれている方は経験豊富で手ごたえのある会話を求めてくるため、ベッドプレイを行うよりハードルが高い。
しかし、同い年の29歳の男性が、ベットインできる金額を払ってでも居酒屋で構わないという。しかも3時間コースで!なにか目的があるのだろうか。
「このお客様ってどんな人?結構いい歳?」
そう聞いてきた店長に私は頭を左右に振った。
「めちゃくちゃ若いですよ。私と同い年です」
「若っ!食事だけで予約するなんてお金持ってるんだろうな」
その意見には同意である。決して高級店ではないが安いわけでもない価格帯のお店で、わざわざ3時間のロングコースで飲食のみ、というのはお金に余裕がある証拠だ。
ホテル代より食事代の方が高くつく場合が多い。食品メーカーの営業と言っていたが、そこまで羽振りが良い給与とは考えにくい。実家が太いか何かしらの遺産があるのか、どちらにせよ財布は温かそうだ。
「とりあえず、飲食の予約で大丈夫です、とお伝えください」
「わかった」
店長がシラカワ様に電話しているのを横耳で聞きながら、手元に広がっている領収書の片付けに取り掛かった。仕事が終わったら話題の引き出しを増やすために、シラカワ様が興味ありそうなことを調べておこう。次こそは満足して頂けるよう頑張らねば。




