第71話 知夏_嫌気がさすほどの大失敗
コース終了まで15分。シャワーの時間だ。
お客様にとってアラームの音が不愉快にならないよう、優しいメロディに設定しているがこのタイミングは良くない。
「もう終わりですか」
「そう、ですね。あと15分あるのでシャワーはゆっくり浴びれますよ」
シャワーの時間をどのくらい確保するかは各キャストに判断が委ねられている。
店長は目安10分と言っていたが、10分間の間にシャワーを浴び、身支度を整えるとなると結構慌ただしい。
一気に現実に引き戻されるような感覚になるので、私は店長が言った目安より5分長めにシャワー時間を確保し、プレイ後に湯船にゆっくり浸かりたい常連客の場合はコース終了20分前にアラームを設定している。
「莉奈さん、良かったら先に浴びてください。きっとお化粧直しとかしますよね」
全くもって役立たずだった私に気を使ってくれて申し訳ない気持ちになる。優しい人だなと思った。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
自分のバスタオルをとると先にシャワーを浴びた。
ファンデ無しで接近戦に耐えられる肌を維持できるよう、美容にはかなり気をつかっているので、私はこの仕事をしてからノーファンデの生活を送っている。
なのでアイメイクが落ちない程度に顔の下半分を軽くお湯で洗った。もちろん日焼け止めは欠かせないのでシラカワさんがシャワーを浴びている間にササっとスプレータイプの日焼け止めを顔に振りかけるつもりだ。
手早くシャワーを浴びると、入れ違いにベットルームに戻った。ニベアの保湿クリームをまんべんなく肌に塗ると手早く服を着て、部屋の照明を少し明るくした。
ほどなくしてシャワー室からきっちり腰にタオルを巻いたシラカワさんが出てきた。
ベットとイスとミニテーブルでいっぱいいっぱいなので、着替えやすいよう場所を譲ってシラカワさんが服を着ている間に私は乱れたベットの掛布団を整える。
「え、毎回整えているんですか?えらいですね」
驚きの声を上げたシラカワさんに、少しだけ肩をすくめて答えた。
「きれいな方が清掃の方が入られた時に気分いいでしょうから」
お互い鞄を手に取り、忘れ物が無いかだけチェックをしてホテルをでると、容赦なく日差しが照り付ける。暑いですね、等と他愛無い話をしながら解散場までの短い距離をしのいだ。
道玄坂を登ったところにある交番の近くに着くと、謝罪の気持ちも込めてお辞儀をした。
「今日はご指名頂きありがとうございました。」
「あ、こちらこそ。」
短く別れの挨拶を済ますと、シラカワさんは人込みで溢れた道玄坂を下っていく。
土曜の昼前は多くの人でごった返しており、シラカワさんの姿はあっという間に見えなくなった。その姿を見送ると、私はマークシティに向かうため横断歩道へ移動した。
あーーーー!失敗した!!!!
天を仰ぎながら、うっすら目に浮かんだ涙を飲み込んだ。上手くいかなかったことへの申し訳なさと、自分の技術不足が露呈した恥ずかしさと、内心気まずく早く帰りたい、と思ってしまった自分の情けなさに嫌気がさした。本指名として2度目の指名はさすがにないだろう。
今さっきの接客内容を反芻し、なにをどのように改善すべきか内省しながら事務所へ戻った。




