第69話 知夏_頑張ってもナマコのまま
一緒にシャワーを浴びることを断られたのは初めてだった。プレイの前にお客様の体を洗うのはサービスの一環だが、それはお店から支給されている消毒液で、お客様の息子をキチンと消毒する目的を果たすためでもある。どうしたって性病感染のリスクが高くなる仕事のため、予防はできる限り行いたい。
話を聞いてる感じあちこちで女遊びをしているようには見えないし、たぶん大丈夫かな、と楽観的に思いつつ部屋の照明を気持ち暗めに設定した。
もしかしたら体になにかしらの傷跡が残っていてそれを見られたくないのかもしれない、などと思考をポジティブに切り替えたところでちょうどシラカワさんがお風呂場から戻ってきた。
私は横になりやすいよう、掛け布団をめくりながらベットに促した。
「少し待っててください。私もシャワーを浴びてきますね」
無地の紺色ワンピースを脱ぐと、手早くシャワーを浴びた。バスタオルを巻きつけてベットに戻ると、シラカワさんはベットの端にちょこんと腰かけている。
「冷房寒くありませんか?シャワー浴びた後だと体冷えちゃいますよ」
そう言って私が先にベットに潜り込み、シラカワさんが入りやすいよう掛布団を持ち上げるとそっとした仕草で私の横に滑り込んできた。すかさずシラカワさんにピッタリ体をくっつけると、たくましく鍛えている胸板に顔を埋める。バランス良く鍛えているのがわかる筋肉だ。
驚くほどの大きな鼓動が私の頬に伝わり、シラカワさんがそっと抱きしめ返してくれる。シラカワさんの腰に回した手で肌をなぞりながら、やはり20代の肌は若くて張りがあっていいな、と思わず普段相手にしているお客様と比較してしまった。
しばらく手だけ動かしてシラカワさんの背中から腰あたりをなでていたけど、シラカワさんから動く気配が一向にないので、私から体位をずらしてそっとキスをした。
遠慮がちにキスを返してくれたけど、私が攻めた方が良さそうなので様子を見ながらキスをする位置を変えていく。シラカワさんはされるがままでうっとりしているのか、何も感じていないのか閉じられた瞳からはよく表現が読み取れない。
そっと息子に触れてみると、なんとちんまりした姿で鎮座していた。やさしく手や口を使って試みるが相変わらずナマコ状態のままで、全く変化がない。
私は勃起不全気味の糖尿病持ちのお客様を相手にした時ですら、立派にしたのちにフィニッシュまで至ったので、自分の技術にはプロとして多少の自信があった。
ところがこのナマコ状態はいかがしたものか。どうしたら喜んで頂けるのか、必死に考えながら行うがシラカワさんがふと首を持ち上げて言った。
「あの、もう大丈夫です…。すみません」
私には女としての魅力が全くない、とフィードバックを受けた気持ちになり、少々傷ついてシラカワさんと目が合う位置まで体をずらした。
「すみません…」
「いや、莉奈さんは別に悪くないんです。あの、少しでも緊張しちゃうと、全然、ほんとにあの、役立たずの息子で」
私を抱き寄せながらシラカワさんが言った。顔をぴったり付けた胸板から相変わらず大きな鼓動が伝わってくる。
「今日はいけなくても別にいいや、っていう気持ちで来たんです。こうやってくっついているだけで満足というか」
一生懸命私をフォローしようとしてくれるかもしれないが、上手くいかなかった原因は私がリラックスできる空間を作り出すことができなかったに他ならない。




