第67話 知夏_ホテル選び失敗
かつては400人以上も芸者が存在していた花街の名残か、渋谷の円山町一帯は多くのラブホテルが密集している。
これは私の個人的な見解だが、渋谷駅に近いエリアの方が安いホテルが多い印象がある。そのぶん、異常に湿気がこもったり、枕カバーやシーツが汚れていたり、バスタブがなくシャワーボックスしか無かったり、中にはトイレが廊下にしかないただの箱部屋のようなホテルもあった。
潔 癖症ではないが、そういうホテルのベットの上で裸になって寝転ぶのはかなりの抵抗がある。以前勤めていた店は、待機場所が渋谷駅近くのホテル街にある雑居ビルであり、価格帯が安い店だったため来訪するお客様も一概に安いホテルを求めた。
そういった安いホテルでの接客からすっかり足が遠のいていたので、渋谷駅方面にあるホテル街に足を向ける気はさらさらなく、道玄坂の交番のすぐ裏側にあるホテル街をあるき、とあるホテルの前で足を止めた。
「ここだと比較的リーズナブルなんですがいかがでしょうか。値段見てから決めて頂いても大丈夫です」
「あ、いや、莉奈さんがお勧めしてくれるのでここにします。」
意外とすんなり決まった。わざわざ安いホテルで、と言ってくるからもっとケチケチしているかと思った。だがそんな感想はミジンコほども表情に出すことなく一緒にホテルの入り口をくぐった。
7月になったばかりとはいえ、真夏並みの気温と直射日光で熱を持った顔に冷房の風が心地良い。
「どっちがいいですか?」
部屋を選ぶためのタッチパネルモニターをみながらシラカワさんが聞いてきた。リーズナブルで清潔感があるためか、空いてる部屋は2部屋しかなかった。白いソファーが映っている部屋か木目調の部屋かどちらかだ。
「じゃあ木目調の部屋で」
そう答えるとシラカワさんは小さく頷いてボタンを押すと、隣の受付カウンターから鍵を受け取った。部屋に入るといかにもラブホテル、といった外見とは打って変わって、室内はこざっぱりとしていてやや狭いが一人掛けの椅子が2個、木材でできたテーブルをは挟んでこじんまりと置いてある。
終始緊張気味のこのお客様とどう距離を縮めるべきか、頭の中でシミュレーションしていた私は部屋の構成をみてしまった、と後悔した。
二人掛けのソファーの方が隣に座れるので距離を詰めやすく、ボディタッチもしやすい。会話が盛り上がればそのままプレイに持っていけるが、カフェのようにお互い向き合って座るタイプの椅子だと、どこかで意図的に会話を切り上げてシャワーへ誘導しなければならない。
慣れているお客様なら、「じゃ、そろそろシャワーへ」と切り出してもスムーズだが、緊張気味のお客様に対してはなるべく会話からプレイへスロープをつけて接客をしたかった。
部屋を選ぶときに木目調ではなく白いソファーが映っている部屋にすればよかった…。




