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第66話 知夏_予想外の若いお客様

 道玄坂を登ると交番があり、その裏手にはホテル街が広がっている。その交番のすぐ近くにあるオフィスビルの1階に入っているスーパー付近が、お客様との待ち合わせ場所としてよく指定されている。

 他のお客様やキャストとかぶらないように、スーパーの入り口近く、スーパーの裏側、オフィスビルの入り口、花壇の目の前など店長が予約を取った時に細かく指定してくれる。

 お客様の携帯に非通知でかかるよう184の数字を頭につけて相手の携帯番号をタップする。ワンコールですぐに繋がった。

「はい」

 渋い声が鼓膜に響く。50代くらいかなぁ、と想像しながら、もう到着する旨を伝え、どのあたりにいるか質問するとスーパーの入口近くに立っている、と返答が返ってきた。

 実はこの時点で待ち合わせ場所から信号を渡った向かい側にすでに私は到着している。ちょっと離れたところでお客様がどの方か目視するためだ。

 赤信号の間にスーパーの入り口付近に立っている男性を確認すると、確かに携帯で電話をしている様子が伺える。

 電話を切ったタイミングでちょうど青信号になり、日傘でしっかりと紫外線を予防しながら横断歩道を渡るにつれ、お客様の外見がはっきりと見えてきた。

 お客様と思われる男性を目にして思わず足を止めた。ずいぶん若い子が来た。若い人、ではなく若い子と言ってしまうくらい若い子が待ち合わせ場所で所在なさげに佇んでいる。

 電話で話した時は渋い声をしていたから、てっきりおじさんだと思っていた私は面食らった。しかし、すぐに気持ちを切り替えて、お客様の正面ではなく斜め45度辺りから近づき控えめに声をかけた。

「あの、シラカワさんですか?」

「え、あ、はい…」

 驚いたように肩を跳ね上げ、こちらを振り返った。身長は180センチは余裕であるだろうか。なにかスポーツをやっているのか体格がかなり良く、全体に筋肉質だ。153センチの私はかなり見上げないと目線を合わせられない。白シャツにチノパンといったシンプルな服装がよく似合う方だ。

「驚かせてごめんなさい。莉奈です。今日はよろしくお願いします。」

「あ、よろしくお願いします…」

 緊張しているのか、動きも表情もものすごくカクカクしている。なんだかこちらまで緊張してしまう。

「さっきお電話した時、渋いお声だったので思ったよりお若くてびっくりしました」

 ニッコリ笑いかけるとシラカワさんは手を頭の後ろにやりながらはにかんだ。

「よく友達からも電話した時の声がおじさんみたい、って言われます…」

「渋くてかっこいいですよ」

 そう答えるとシラカワさんは、どうも、と頭をちょこんと下げてきた。

 どう見ても20代半ばにしか見えない。今まで指名を受けた中で一番若かったお客様は30代半ばの方だ。若い男性は若い女性を求めるものだ、と考えていた私はこの若い客は熟女趣味なのかといぶかった。

「さ、行きましょうか。どのホテルがいいとかありますか?」

 相変わらず目の前でそわそわしている様子に私がリードした方がよさそうだ、と思いながらホテル街へ誘導し始めた。

「あ、ここらへん来るの初めてで…。あまりよくわからないんです」

「そしたらどういうホテルがいいでしょう?安いところとか、広いところとか、ケーキが無料で食べれるところとかありますよ」

 ゆっくりホテル街を歩きながら頭の中に候補を浮かべながら尋ねた。

「じゃあ、安いところがいいです」

 この時点で申し訳ないが、私のモチベは少し落ちた。

 もちろん、何事も安く抑えられる方が良いに決まっている。しかし、多少高いお金を払ってでも特別な時間や体験を求めるお客様が多いので、ホテルは安さよりも清潔で居心地がよい場所を選ぶ人ばかりだ。


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