第61話 優太_意を決して風俗店を予約
千早に言われたものの、結局予約しないまま2週間近くがすぎた。
その間、最も気になった人妻専門渋谷店の莉奈さんの口コミや、更新されていく写メ日記を読んで過ごした。1週間に1回のペースで写メ日記を更新しているようで、最新の写メ日記の内容は国立新美術館で開催されていた現代アートの展示会について書かれている。
全く触れたことのないジャンルの話だったが、面白そうだな、その展示に足を運んでみようかな、という気にさせられるほど上手い文章だった。
もうすぐ6月が終わる。風俗にいこうと思い経ってから1カ月半が過ぎようとしていた。
俺は冷蔵庫からビールを1缶取り出し、一気に半分ほど飲み干した。サイトに表示されている電話番号をタップすると、ワンコールで繋がった。
『お電話ありがとうございます。人妻専門渋谷店です』
驚いたことに女性が出た。びっくりしすぎて、のどが詰まる。
『…あの、もしもし?』
「あ、すみません。初めて電話かけているんですが…」
てっきり男性が出るものだと思っていた俺は出鼻をくじかれる想いだ。
『初めてのご利用ですね。店長に代わりますので少々お待ちください。』
保留の音楽が流れたと思ったらすぐに男性のだみ声が耳に響いた。
『お電話変わりました。人妻専門渋谷店の店長をしている藤本です。この度は数あるお店の中から当店を選んでいただき、誠にありがとうございますっ。』
言葉は丁寧だが言い方が威勢が良く、ちょっとたじろぐ。
『ご希望の奥様はいらっしゃいますでしょうか。』
奥様…?一瞬なんの話だ、と思ったが人妻専門店だからか、と納得する。
「あの、莉奈さん気になっているんですが…」
『莉奈さんですね。ありがとうございますっ。ご希望の日時はございますか』
俺は先ほどチェックした莉奈さんの勤務表を頭に思い浮かべながら答える。
「あの、次の土曜日の10時って大丈夫ですか」
『はい、7月5日土曜日の10時ですね。予約可能でございます。コース時間はいかが致しましょう。』
「90分でお願いします」
『かしこまりました。お待ち合わせ場所はいかが致しましょう』
「渋谷でお願いします」
『渋谷でございますね。かしこまりました。当店をご利用いただくにあたり、お客様の携帯番号を登録させて頂く必要がございますが、よろしいでしょうか。』
え、携帯電話を登録しなきゃいけないのか。
逡巡したが、ここで後戻りもしにくい。
「あ、はい。大丈夫です」
『ありがとうございます。それではお客様のお名前をお伺いできますでしょうか。』
「白川です」
『シラカワ様ですね。かしこまりました。』
あれ、こういう時は偽名使った方がよかったのかな。しかし、時はすでに遅し。
『それでは、当店のご利用時における注意点をご説明させて頂きます』
「あ、はい」
『当店はデリバリーヘルス専門のため本番行為は禁止しております。また奥様に対する暴力的な言動もご遠慮頂いております。ご予約日の前日になりましたら、お電話かメールでご連絡させて頂きます。その際にお客様からのご連絡の確認が取れない場合は、ご予約はキャンセル扱いとなります。ご予約の確認を行う際、電話とメール、どちらがよろしいでしょうか。』
「あ、じゃあメールで」
『かしこまりました。では後ほど、当店のホームページの一番下にお問い合わせ情報が記載されております。そちらに記載されているアドレス宛にお客様からメールを頂いてもよろしくお願いしますでしょうか』
「あ、はい」
『ありがとうございますっ。メールを頂く際には、ご登録いただいた電話番号とご予約いただいた奥様のお名前を記載してお送りください』
「あ、わかりました。」
『ご不明な点等ございますでしょうか』
「えぇっと」
あまりにもきっちりした対応にびっくりして、頭が回らない。
「大丈夫です」
『では、当日、お待ち合わせ時間になりましたら奥様から非通知でお電話がかかりますので、お電話に出て頂き、合流なさってください』
「わかりました」
『他にご不明な点等ございますか』
「えぇっと、…莉奈さんってどんな女性ですか」
会えばわかるだろうが、気になって仕方がない。
『それはもう素晴らしい奥様ですよ。夢のようなお時間をお約束致します』
その胡散臭い言い方は、ニヤニヤしながら面白がっている千早の顔を連想させた




