第57話 知夏_キャストの日常
「莉奈さん?」
名前を呼ばれて携帯から顔を上げると、明るいショートカットのお姉さんが手を振っている。
「あ、はい。舞さんですか?」
「そうそう。ってか若いね!?いくつ?」
「今年で30です。」
「まじか!干支一緒じゃん。ペアがこんな年上でごめんね。今日はよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。」
私は会釈をし、携帯を鞄にしまった。
「さっき店長から連絡があって、お客さんが1時間遅れるみたいだから近くで待機してて、だってさ。あ、でも待機中も料金は払ってくれるみたいだよ。」
ラッキーだね、と舞さんは笑いながら、あそこのカフェに入ろうっか、と言うなりスタスタ歩いていくので、慌ててついていく。
平日の13時なので混んでる様子もなく空いていた。ふかふかのソファー席に座ると、私と舞さんはそれぞれカフェラテとレモンティーを注文した。
舞さん、キャスト年齢35歳。お店に在籍して5年目になるベテランキャスト嬢だ。店長からは実年齢42歳のバツイチ、子供子持ち、と聞いている。本来ならこういったキャストの個人情報は口外厳禁だが、事務スタッフを兼任しているため、特別に教えてもらった。
舞さんは月に2〜3回のペースで出勤しており、収入額は月に10〜15万、多い時には20万近く稼いでいる。ランキング入りはしてないがリピーターのお客様が多く、その多くが超ロングコースの360分コースを指定してくる。
彼女のお客様はクレジット決済を行う方が多いため、月に1回、領収書にまとめてサインを頂く時に1か月分の報酬を渡している。このような支払いをしているのは舞さんだけだ。
舞さんはスタイルがよく、細身のパンツスーツがよく似合う。シースルーのトップスに薄いカーディガン、鮮やかなオレンジのハンドバッグ、高めのヒールのサンダル。なんとも華やかな雰囲気をまとったお姉さん、といった感じだ。
本来は接客でパンツ姿は禁止されてるけど、舞さんは脚の形が綺麗なのでパンツの方がよく似合う。スカートを履くよりもパンツスタイルの方がスタイルの良さが際立つ。羨ましいほどの美脚である。そしてとても40過ぎにはみえない。キャスト年齢35歳でも十分通用するくらい若々しい。
「てか、莉奈さんって、お店のスタッフもやってるよね?」
「え、どうしてご存知なんですか?」
「前に事務所行った時に見かけたのよ。面接で来てた人にお茶出してたでしょ?女性のスタッフは今まで何人か見たことあるけど、初めて見る顔だったし、かわいい子いるな~って思ったんだよね。実は私も前はスタッフやってたんだよ。」
舞さんの気さくな話し方に私は好感を持った。
今日は久しぶりの複数プレイのご指名を頂いた。複数プレイとは、お客様1名に対してキャストが2人以上付く仕事のことだ。複数プレイの仕事ではキャスト同士の相性やコミュ力が必要とされるから、舞さんとはうまくやれそうでホッとする。
「全然気がつかなかったです。舞さん、どうしてお店のスタッフ辞めちゃったんですか?」
「正社員の仕事に就けたからよ。ここのお店に入ったころはスーパーでアルバイトしてたよ。」
「そうなんですね。今はなんのお仕事されているんですか?」
「スーパーの店員だよ。アルバイトしてたお店にそのまま就職できた、ってわけ」
でも、給与が安いのよね、とため息をついている。
注文したドリンクが運ばれてきた。私はカフェラテ、舞さんはレモンティーを飲む。
明るく気さくで良く話す舞さんは、まさに『舞』という漢字がピッタリだった。聞けば趣味はダンスだという。きっと店長のことだ、キャスト名を付ける時に、我が子の名前を付けるがごとく考えてつけたに違いない。




