第52話 知夏_借金と泣き寝入り――独立の代償
「私もね結構借金しちゃったの。もう首が回らないから、昨日、弁護士のところに行って任意整理してきた。」
事の重大さに言葉を失う。しているだろうな、と思いながらも弁護士に回収できないのか、相談したのかどうかを尋ねると、「とっくにしたよ」と返事が返ってきた。
「でもね、あいつが詐欺をしているって物的証拠が全くないのよ。マルチ商法は違法ではないし、私も合意の上でチームに参加していたから。開業資金に、と借りたお金をあのお店の売上のために使ったけど、それだって第三者からみたら客がお店で買い物をした、っていう風にしかみえないの」
「そんなバカな…」
「知夏、あのお店で商品買う時、支払いは現金のみで、まとまった金額では買わないでって言われたでしょ。こまめに来て買ってほしいって言われたんじゃない?で、レシートいらなかったらこっちで処分するよ、って店長に言われなかった?」
「…言われました」
「だから、レジのデータとしては数万単位で買い物をした客が複数人いるんだな、ってことになっているのよ。仮に、レシートを持っていたとしても、自分が買ったっていう証拠には必ずしもならない。クレジット決済なら立証できるんだけどね。現金だと難しいんだって」
弁護士に言われた、と諦めたように先輩は言った。民事裁判を起こすことは可能だけど、裁判は時間もお金がかかる。私には金銭的にも精神的にも余裕がないから、勝ち目が薄い裁判を起こす気にもなれない。そう私に告げた。
「…泣き寝入りってことですか?」
納得がいかなかった。任意整理をするほどの借金を作ってしまったのに、1円も回収するどころか、自宅にだって身の危険を感じて帰れないのだ。
「泣き寝入りじゃないよ。あいつのチームの半分近い会員を辞めさせられたし、あいつがやっていることを他のチームに言いふらしてきたから、組織内でのあいつの立場はかなり落ちたと思う。理解しにくいとは思うけど、これはあいつの立場からしたら痛手なの。おそらく収益が半分くらいになったんじゃないかな。だから私に嫌がらせしてるんじゃない。」
「…」
「私はもう疲れたから、とにかくあの組織とは一切縁を切りたいのよ。借金を作っちゃったのも、結局自分の脇の甘さが原因だと思うし」
それは違う、と言いかけて止めた。そういう風に判断するようにマインドコントロールされていたのではないか。
しかし、それを立証することが果たしてできるのだろうか。しかし、お金をつぎ込んでしまったことを、詐欺として立証できなかったとしても、そのノルマとやらを達成するために風俗で働くよう斡旋することや、裸の写真をとって弱みを握るようなことをしているのなら、明らかに犯罪ではないのだろうか。
だが、私は当事者でもないし何かができる立場でもない。
「こんなことに巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。あいつを紹介した時は、本当にいいと思って紹介したんだけど、まさかあんなゲス野郎だとは思わなかった。」
深々と頭を下げる先輩をみて困惑した。この件で先輩を責めようという気は全くない。それどころか先輩も被害者だ。
「あの、先輩が謝ることじゃないです。私、オーナーにお金返してもらえるよう連絡してみます。」
「たぶん対応してくれないとは思うけど、なんかあったらすぐに警察に相談してね。それから、私とは連絡とれないってことにして欲しい。たぶん、聞かれると思うから」
「…わかりました。」
「私、もう少ししたら携帯の番号変えるつもりだから。番号変わったら連絡先送るね」
私は黙って頷いた。
先輩と別れた後、私はすぐにオーナーにお金を返金して欲しい旨をメールに記載して送った。返事はおそらく返ってこないだろうと思っていたが、すぐに電話が来た。




