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第48話 知夏_詐欺だと分かった瞬間

 雲行きが怪しくなったのは、借金したお金をセレクトショップの売上に突っ込み終わった後である。毎月振り込まれていた革製品の売上の入金が遅れるようになった。

 今までは月末に振り込まれていたが、それが月初になり、中旬になり、しまいには振込が無くなった。

 私は革製品の売上を借金の返済に充てていたので、オーナーに連絡し売上を振り込んでくれるよう伝えた。オーナーからは「新しい事業の立ち上げで忙しかった。悪かったね」と謝罪の言葉と共に、すぐに売り上げが振り込まれたが明らかに少ない。

 しかし、そこで私はあることに気づいた。あのお店で販売している革製品が、いつ何が売れて、毎月いくら売上げがあったのか正確には把握していない。口座に振り込まれる金額をみて、初めてその月の売上を知る、というありさまだ。

 なんなら、毎月どの製品を何個納品しているのか記録を取っていないため、私の方でもかなり曖昧にしかわからない。これは全くもって私のずさんな性格を責めるしかなかった。

 そこでオーナーへ、私が納品している革製品の売上表を見せて欲しい、とメールを送ったが返信が返ってこない。電話をしても常に留守電になる。不信感が芽生え、お店に行き店長にオーナーと連絡が取れないことを伝えた。すると店長が困ったように言った。

「私も最近連絡が取れないんだよね。知夏ちゃんの革製品、どのくらい売れているか大体はわかるんだけど、細かく把握しているのはオーナーなの」

 その時は素直にそうなのか、とガッカリしたがこれが全くの噓だということを後ほど知った時は、信じられない気持ちだった。

 私は先輩に相談しようと連絡を取ると、先輩から人目の付かないところで話がしたい、と奇妙な返事を受けた。指定された日時は平日のお昼、しかも立川駅で会いたいと連絡が来た時には、いったい何事かと思った。当時、私は板橋に住んでおり、先輩は池袋に住んでいた。

 私は急いで有給をとり、指定された日時に立川に向かった。久々にあった先輩はクマがひどく、病気なんじゃないかと心配になるほど顔色が悪かった。

「遠くまでごめんね。ここはあいつらの活動圏外だから。絶対にすれ違ったりしない」

 あいつら、が一体何を指しているのかピンとこないまま先輩にくっついていき、駅近くのカフェに入った。とりあえず、日替わりランチを注文し、先輩が話し出すのを待ったが、固く口を閉ざしているので私の方から口を開いた。

「先輩、しばらくぶりですけど、体調崩しているんですか?顔色悪いですよ」

 すると先輩はため息をつき言った。

「そうね。精神的に今、きてる」

「何かあったんですか…?」

 うつ的なものだろうか。詳しくないが精神的な問題と言えば真っ先に頭に浮かんだのがそれだった。

「まって、今、頭の中整理してるから」

 先輩は背もたれに寄りかかり、目を閉じると深く息を吸っては吐いた。先輩とは大学時代から9年近い付き合いになるが、こんなに憔悴しきった姿を見るのは初めてだった。

 ランチが運ばれても先輩は目をつぶったままだ。おしゃれに盛り付けられたロコモコ丼の湯気がどんどん消えていく。

「…先輩、冷めないうちに食べましょ」

 遠慮がちに声をかけると、そうね、と先輩はつぶやき、スプーンですくって食べ始めた。私も食べるが、とにかく先輩の様子が尋常じゃなさ過ぎて味が全くもってわからない。

「私ね、あのお店に納品するのは辞めるわ。オーナーとの付き合いも一切とらないことにした。というか組織を抜けることにした。」

 半分くらい食べ進めた頃に、唐突に先輩が言った。組織から抜ける、という聞きなれないワードに私は、とある探偵もののアニメに出てくる組織から抜ける、的なことと同じ意味だろうか、と考えた。

「えっと…?」

「ごめん、一から説明するわ。知夏はあのお店のことやオーナーが言っていたチームのことって、どういうものだと思っている?」

「えーと、独立とか起業したい人の集まりだと思ってますけど」

「そうね。確かにそういう志を持った人たちで構成されている集団なんだけど、実態はマルチ商法の会員なのよ」

 マルチ。単語は知っているが、詳しくはしらない。しかし、決してポジティブなイメージがあるものではなかった。

「私もね、その会員の一人なの」

「…」

 ポカンと口を開けてしまった。


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