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第47話 知夏_「独立しないか?」の一言で狂った人生

 私が独立にあこがれを抱くようになった矢先、セレクトショップに納品していたアクセサリー作家の女性が独立した。オーナーの知り合いとの共同出資だったけれども、小さなセレクトショップを開き、開店祝いに駆けつけた時、彼女は決意に満ち溢れていて、幸せそうな顔をしていた。私はその姿に強烈に憧れた。

 私が独立を果たしたハンドメイド作家に憧憬の気持ちを抱いていることに気づいた店長から、とあるセミナーに誘われた。

「知夏ちゃんと同じように独立したい人向けに、オーナーがセミナーをやっているんだけど、良かったら聞いてみたら?」

 その時には店長のこともオーナーのこともすっかり信用していたので、私はすぐに二つ返事をした。後日、大学の先輩と一緒にセミナーに参加し、オーナーが教える独立のノウハウについて勉強しに行った。

 50人ほど集まっている貸し会議室で、知っている顔を何人か見かけた。それはセレクトショップのスタッフや、ハンドメイド作家、常連客として良く来ている若い女性達だった。

 セミナーの内容は簡単に言えばチームビルディングを実践することだった。チームを作り事業を立ち上げ、ノウハウを共有することでより大きなチームを育成する。チームがある状態で独立すれば、成功する確率が高い。課題になりやすい集客はチーム内で協力をし合って人を集めていく。

 私はこれを聞いて痛く感銘を受けた。なるほど。だからあのセレクトショップは人通りが多いとは言えない場所に店を構えていても、安定して売上が上がっているのか。

 私はどうやったらそのチームとやらを作れるのか、と気になった。セミナーが終わった後で、お店の店長とオーナーの3人で居酒屋で飲みながら私はチーム作りについてオーナーに質問した。するとオーナーは意外にもこう言った。

「それよりも、先にお店をださないか?君がつくる革製品はお客様から好評でね。店舗でもECサイトでも良く売れる。さっき説明したようにまずはチームを作ってから独立した方が確実だけど、君は技術があるしセンスも良い。君が独立してお店を持てば僕の実績にもなる。すぐに会社を辞めて独立する、ということではないよ。まずは作家兼オーナーとしてお店を運営して、お店の売り上げが安定してから会社は辞めればいい。僕の知り合いで店長をやってくれそうな人もいるから、人材確保の心配は必要ない。お互いウィンウィンだと思うだけど、どうかな。」

 それは素敵な提案に聞こえた。私の独立をバックアップしてくれるという。しかし、大きな懸念点がある。

「あの、私、お店を開くほどの貯金がありません」

 そう言うとオーナーは笑った。

「開業資金を貯めてから独立を目指したら時間がかかって仕方がないよ。多くの人は借金をして開業してるさ」

 開業資金として必要な金額を聞くと、私は内心ビビった。数百万の借金。それは一会社員にとってとんでもなく大金だった。

「まぁ、しり込みするのはわかるよ。僕も会社員の時に借金してお店を出した時は不安で眠れなかったから。でもね、ノーリスクでやっても成功しないよ。借金というリスクを背負うと、人間は必死になって回収しようと頭を使うからね。負荷を負った方が、絶対に成長できるよ」

なるほど。確かにそうかもしれない。最初は二足のわらじ状態だが、いきなり会社を辞めて独立するよりかは生活費に困るということは無いだろう。

「わかりました。やってみたいです」

 私はドキドキしながら答えた。

 今思えばこんな重大な決断、その場で行うこと自体がどうかしていたのだが、セミナー直後の私の脳は興奮状態だった。おそらく、このやり方でオーナーは色んな人からお金を巻き上げてきたのだろう。

「独立を支援する代わりの交換条件なんだが、僕のお店の売上げをあげることに協力して欲しい。来年にはもう2店舗事業を拡大したいと思っているんだ。そのために銀行から融資を引っ張りたいんだが、今の店の売り上げが高ければ高いほど融資を受けやすい。なので、君が独立に必要な金額を一時的に僕に投資して欲しい。もちろん、投資してもらった分のお金は君が開業する時にそのまま回すよ。見返りとして君が開業する時に、税理士や不動産、諸々の業者を紹介しよう。僕の紹介ということで、割安でできるように手配する。」

 私はその話を承諾した。後日、オーナーが紹介してくれた複数の金融機関でお金を借り、2カ月にわたってセレクトショップの商品を買い続けた。その額は500万を超えた。当然、毎月の支払いが生じたが、革製品の売上げと会社からの給与で何とか返せる金額だったので、節約しながら生活を送った。当時の私は夢が叶うことに完全に浮かれていた。

 普通だったら念書か何か書くだろう。しかし、この数年間、納品書も請求書も無しで金銭のやり取りを行っていたので、私はすっかりオーナーを信用してしまっていたのだ。


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