第45話 知夏_騙されたと気づいた時には、もう遅かった
騙された、と気づいた時にはもう遅かった。これがニュースで見たことがある投資詐欺か!まさか自分が引っかかるとは思いもよらなかった。
社会人になり仕事に慣れた2年目、大学のサークルの先輩だった人にハンドメイド製品をセレクトショップで販売しないか、と声をかけられたのがきっかけだった。
大学時代、所属していたハンドメイドサークルで私は革製品の小物を、絵麻は陶磁器や絵画を作っては共同でイベントに出品し販売していた。とはいっても、素人に毛が生えたようなレベルである。しかし、オリジナルの刻印をオーダーメイドし、それを印した作品が売れてた瞬間はこの上なく充実感を味わえた。
社会人になってからはハンドメイド専門のサイトでぼちぼち販売を行い、陶芸教室で働いている絵麻と一緒にイベントに出店をしていた。生きがいと言ってもいいくらい、ハンドメイド活動に当時はのめり込んでいた。SNSで作品を発信し続けたおかげで、たまにDMで期間限定のイベントスペースや店舗への出品のお誘いが来るようになり、仕事の合間を縫って創作活動に取り組んでいた。
そんな頃に大学時代の先輩にセレクトショップへ納品する話を持ち掛けられて、私は大いに興味を持った。
先輩はオリジナルアクセサリーを制作し、セレクトショップやECサイトで販売を行っていた。その先輩が納品しているセレクトショップに納品させてもらえる、とのことなので私はそのセレクトショップのオーナーを先輩から紹介してもらった。
そのセレクトショップは繫華街から外れた路地裏にひっそりと立っており、知る人ぞ知る穴場の店、といった印象だった。紹介されたオーナーは40代半ばと先輩から聞いていたが、実際に会ってみると若々しく学生の頃から水泳を続けている、というだけあってスポーツマンといった風情を醸し出していた。
納品の条件を確認すると、それはかなりの好条件だった。スペース代は不要。売上の7割が製作者、3割がオーナー。納品ペースは作家に任せる。
そのセレクトショップのスペースの半分は様々なハンドメイド作家の作品が並べられており、もう半分はおしゃれな生活消耗品や雑貨が並べられていた。
見た感じ街中で見かける普通のセレクトショップにみえる。しかし、気になったことがあったので1点だけオーナーに確認した。
「スペース代が不要なのはありがたいんですが、この販売方法でお店側の利益は確保されるのでしょうか。」
それに対してオーナーはこう答えた。
「この店舗だけだと売上はそんなにないよ。これは僕の趣味なんだ。僕は会社を持っているから本業はそっちなんだよ」
詳しく話を聞けば、飲食店、貸しスペース、人材会社など手広く事業を手掛けているらしい。私はいったん考えたい旨を伝えて家に帰ったら、ネットでそのオーナーのことを調べた。
オーナーや先輩から話を聞いた通り、経営している会社のホームページ、飲食店や貸しスペースのホームページが見つかり、グーグルマップのストーリートビューで店舗が実在していることも確認した。他にはオーナー自身のブログや、ブロガーらしき人のサイトでオーナーが紹介されている記事を読んだ。
もし、これが先輩からの紹介じゃなければ好条件すぎて不審に思っただろう。しかし、仲の良かった先輩からの紹介とあって、そこまで不審に思うことなく私は作品を納品することにした。
私に与えられたスペースはちょうど新聞紙を広げたスペースと同じくらいの広さだった。趣味でやっている身としては十分なスペースだった。
初めて納品しに行った際に、作品と一緒に納品リストを持っていきサインを求めたがオーナーが笑いながら書類を返してきた。
「そんなにキッチリしなくていいよ。他の作家も緩くやっているし、俺はたまにしかこの店にいないから、納品する時は店長に声かけて自由に置いて行っていいよ」
それを聞いて私はあまりの緩さに驚いた。そのことを後日、オーナーを紹介してくれた先輩に話すと、先輩も納品書は作らずに売れ行きに合わせて作品を置きに行っているという。
今まで店舗に納品したことが無かったので、そんなもんなのかな、と当時は思った。しかし、半年がたつ頃にはその緩さを気にするどころか、すぐに便利だなと思い始めた。




