第43話 知夏_役に立たなくなっても、愛は残る
私が人生のパートナーを探すにあたって、相手に求める条件について考えるようになったある日、70歳を超えたおじい様から指名を頂いた。そのおじい様に奥様との関係を聞くと、こう言った。
「さすがにこの年になると息子は役に立たん。女房も濡れ具合は悪くなる。だが、今でも一緒に良く寝るよ。セックスはコミュニケーションの一種であって、心の相性が良ければお互い絶頂を迎えられなかったとしても、心地よい満足感が得られる」
矍鑠とした様子のおじい様は、「ま、たまには若い女性の肌には触れたくなるけどね」と笑いながら言った。
私はそのセックスに対するその価値観にひどく感心してしまった。私にとってのセックスとは男性なら射精を伴う快楽のこと、女性ならば絶頂を迎える快楽のことを指し示し、それが含まれない行為は失敗だと思っていた。
我ながら数えきれない人とベットを共にしてきたが、心に残るような満足のいくセックスができたのは数えられるほど少ない。そもそも挿入行為が気持ちいいか、と聞かれれば正直言って「?」、と思うことの方が圧倒的に多かったし、相手が女性の場合はさすがに同性なだけあって、女性特有の気持ち良い場所をよくわかっているが、だからといって満たされるような時間というわけでもない。
それでも昔はまぁまぁ楽しく過ごせたけれど、私は決して相手にとって特別な存在ではないことを自覚し、寂しさを覚えたものだ。
あぁ、どこかしら虚しさが残るのは心が満たされていなかったからなのか。
「…ミヤギさんにとって奥様は、年を重ねても女らしい女性ですか?だから性欲が湧くのでしょうか?」
私は思い切って聞いてみた。
「女らしいかどうかはわからないなぁ。あいつは畑仕事が趣味みたいなもんだから日焼けして肌も手もガサガサだし。若いころから化粧や着飾ることに、ほとんど興味ないやつだったし」
少し考えるように目線を漂わせながら答えてくれた。
「…そうだな、うん、女房にメスとしての女を今でも感じているか、といったらノーだな。でも女であるとかそれ以前に、とても愛おしくて大事な存在なんだよ。だから生身のあいつを抱きしめて、その存在を腕の中で感じたいと思うし、女房と一緒にいるだけで、僕は終始ご機嫌な人生を送れたわけだから、女房には満足してもらいたいだ。」
素敵だな。心の底からそう思う。そして、そんな人生をパートナーと歩んできたこのお客様が心底羨ましく思う。私もその様なパートナーをみつけて、このお客様のような歳の取り方をしたい。




