第38話 知夏_私の武器と目標
面接時に店長が一定の基準を設けているだけあって、在籍キャストのルックスは悪くはない。むしろ良い。ほんとかどうかは知らないが元CAや元モデル、元タレントなどの肩書で売り出しているキャストは少なくない。
そしてその肩書を持つキャストとお給料の清算の時に対面すると、確かにスタイルが求められる仕事をしていた、と聞いても納得してしまうほどのプロポーションを備えていた。
また、ホームページに記載されている各キャストの紹介文に「お色気ムンムン」といったワードが見られるが、私は初めてこのワードを目にしてしまった時に内心、失笑してしまった。お色気ムンムンって、マンガじゃあるまいし…。
しかし、お色気ムンムンと紹介されているキャストと対面した時になぜその紹介文でホームページに載っているのか納得した。
キャスト年齢は39歳だが実際に見たところ40代後半に見えるそのキャストは、確かに色気があふれていて艶っぽい。性的欲求の満足度に比重を置くお客が好んで指名しそうだと思った。
そういった外見面や色気が武器になりそうなキャストと、同じ土俵で指名争奪戦に勝ち抜く自信は全くと言っていいほど私には無かった。つまり私は風俗嬢でありながら、体で勝負する自信が無かったのである。
大勢いるライバルに勝つためには自分の強みを自覚したうえで武器を最大限生かした方がよい。体系も顔面も色気も他のお姉さまキャストに勝てるとはとても思えないうえに、過激なベットプレイも苦手である。
ただ、コミュニケーション能力に関してはほんの少しだけ自信があった。初対面の人にも臆することなく話すことができるし、引っ込み思案な気質はあるものの人見知りではない。このコミュニケーション能力は営業時代に培ったおかげで多少はマシなはずである。
そういった私の性格や外的要因からみても愛花さんは私が目指すべき目標としてベストだった。失礼だが愛花さんのルックスは他のキャストに比べると優れているとはいいがたいし、お色気ムンムンという程の雰囲気もない。
写メ日記や直接会話した時の印象、常連客との付き合いの長さからおそらく性欲的満足度より精神的満足度に比重を置いた接客をしているのではないかと思われた。
私自身も短い風俗嬢経験から、精神的に満足度を与えられたと手ごたえがあったお客様が、本指名としてリピートしてくれていることに気づいていた。そしてこの人妻専門店にくるお客様は刺激よりも癒しを求めている傾向が強いと思う。
もちろん非日常的で、刺激的な時間を求めるお客様もいる。そういったタイプの客の要望には満足に答えることができず、高い報酬をもらいながらも精神的疲労がそれを上回り、セルフケアに時間と労力がかかるので、正直割に合わないと感じてしまう。
プレイは月並みでも精神的に満たされていれば、総合して満足度は高くなるはずである。これは私自身の経験に基づく考察であった。
何人かの男性とお付き合いをし、彼氏がいない時は連絡先を交換せずにその場限りの一夜を過ごし、お互い体の相性が良ければ、継続的にベッドだけの関係を続けた人も何人かいた。
しかし、20代後半を過ぎると、彼氏以外との肉体関係を持つことはほぼ無くなった。というもの肉体的に満足しても心が満たされなければ、虚しさが残ることをうんざりするほど体感した。体の相性がそこまで良くなかったとしても、お互い信頼関係があれば終わった後の満足度は、幸福と言えるに値することに気づいたからだ。
ではどうやってお客様の精神的満足度を向上させるか、その方法を考えている時に以前、話したホステスの話を思い出した。
彼女が言っていた「仕事とは関係なく、ひたすらにお客様の心に私の心を添わせる」は接客サービスを提供する上で、とても重要な心構えだと思う。目的は本指名獲得のためだが、その目的を心の中心に据えてしまうと、仕事感がにじみ出てしまうような気がする。
あくまでも目的はお客様の精神的満足度を向上する事であって、それを達成するための手段として心を添わせることを実践し、そして結果的に本指名が獲得できた、という流れの方がおそらく良いような気がする。
これは営業時代に受けた研修が大いに役立った。当時はあまり熱心に聞いてはいなかったが、手段と目的をはき違えないように計画を実行する、という話は覚えていた。
愛花さんという目標を定めて、売上を上げるために私は三つのことを変え始めた。




