第28話 知夏_ソファと香るコーヒー
小さなお子様がいることがうかがえる玄関に上がり、雑誌に出てくるようなセンスの良いリビングに通されると、ふかふかのソファーに座るよう促された。ツヤツヤした革張りのソファーは座り心地が良く、しっとりした肌触りが高価な家具であることを伺わせた。
「コーヒーでいいかな?」
お客様が対面キッチンから、コーヒー豆が入った瓶を示しながら聞いてきた。
「ありがとうございます。頂きます」
そう答えたものの本音を言えばコーヒーを飲むとトイレが近くなりプレイに支障が出る恐れがあるので、できれば避けたいところではある。しかし、申し出を断るのも失礼なので控えめに頷いた。
「今、他の豆を切らしていて、ブレンドしかないんだ。ごめんね」
謝る必要は全くもってないのだが、お客様は申し訳なさそうに肩をすくめた。
コーヒー豆を瓶から深いスプーンですくうと、見慣れない機械に入れ上部についているハンドルのようなものを回し始めた。ゴリゴリと聞きなれない音がリビングに響き渡り、私は好奇心を抑えられずソファーから立ちあがり、キッチンの様子を伺った。
「コーヒーミルでコーヒー飲むのは初めて?」
ほほ笑みながらお客様が手元から顔をあげた。
「はい。コーヒーミルを見るのも、コーヒーミルを自宅で引いている人と会うのも初めてです。」
「それはいい。是非とも味わって。引き立てのコーヒー豆は香りが違うよ」
嬉しそうに笑うお客様は実にイケメンである。
粉状になったコーヒー豆が入っている小さな引き出しを、私に差し出してきた。少し顔を近づけて匂いを嗅ぐと、コーヒー音痴の私でも違いが分かった。
「すごくいい香りです。インスタントと全然違いますね」
「そりゃあ手間暇かけているからね」
にっこり笑いながらお客様は慣れた手つきでペーパーフィルターにコーヒー豆を写し、銀色のコーヒーケルトからゆっくり円を描くようにお湯を注いでいる様子を見て、コーヒー一杯入れるのに贅沢な時間の使い方をするもんだな、と感心してしまった。
なにかしらスポーツをしていそうな体格が、シンプルなシャツの上から伺えた。清潔感があって、整った顔立ち、住まいからある程度の収入があることも伺える。
リビングを見渡せば、お子さん2人と奥さんと思われる人物が映った写真が飾られており、幸せそうな家庭を築いているようにも見える。上質な暮らし、そんな言葉が似合う方である。
なぜこんな人が風俗嬢を呼ぶ必要があるのか、俄然興味が湧いた。
お客様は青地に金色で細かい模様がかかれているエスニックな柄のコーヒーカップにコーヒーを注ぎ、チョコレートを同じ模様の小皿に数粒乗せると、ローテーブルの上に並べた。「さぁ、座って」と、自分の隣を示してきた。
「お邪魔します」
失礼にならない程度に距離を保ち、ソファーに腰かけるとコーヒーを頂いた。
「おいしい!」
思わず感想がこぼれた。引き立ての豆で淹れたコーヒーはこんなにも味が違うものなのか。驚きである。そんな様子の私を満足げに眺めながら、お客様はコーヒーの歴史や美味しいコーヒー淹れ方について色々教えてくれた。




