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第26話 知夏_答えは秘密です

 卓に戻ると改めて他のホステス達を眺めてみた。私の隣に座っているホステスだけでなく、卓についてくれているホステスのレベルがなんと高いことか。外見のスペックが高いのはもちろんだが、接客スキルと言えばいいのだろうか、卓全体が盛り上がっている。

 藤本店長は賑やかに飲むことが好きだが、新宿店の店長はどちらかというと大人しい人柄だ。池袋店の店長はお酒に弱いし、川崎店の店長は女性なので、ノリが男性とは少し異なる。

 各店舗の店長たちは、皆一様に個性的な人柄だが、ホステス達が上手く連携し、藤本店長を立てる形で場を盛り上げていた。私はこの連携プレーに心から感心してしまった。

 これはお金を払う価値がある。同性の私ですらホステスの振る舞いを見て心底そう思った。私は隣に座っている髪の毛がきれいなホステスに、自分は藤本店長の店のキャストであることを伝え、接客する際に何を心掛けているのか聞いてみた。

 彼女はちょっと口角をあげてほほ笑むと、少しだけ首を傾け私の顔を覗き込むように上目線を放ってきた。図らずもその色っぽさにドキッとしてしまい、これが色っぽいということか、と遅れて気が付いた。

「女性を求めるお客様は体ではなく心の満足度を求めている、と私は思っているので、接客をするという考えは捨てています。」

 秘密話でもするように、ひっそりと話してくれた。その声音たるものやらなにかの小説で読んだ、甘い女性の声、とはこういう声質のことなのだろうな、と思わせるような響きを持っていた。

 しかし、いまいち彼女が言っていることを理解できなかった私の表情を見て、彼女は優しくほほ笑んだ。

「ひたすらお客様の心に、私の心を添わせることを意識しています。お金を払ってもらったから、相手はお客様だから、これが仕事だから、そういったことは関係ありません。あくまでも一対一の人間関係を築くこと、充実した時間がお互いに過ごせるように心を砕きます」

 その言葉は私が風俗嬢を仕事とするうえで指針に成るだけでなく、その後の私の人生においても大きな影響を及ぼした。

 もちろん仕事をする時は、対価に見合ったサービスの提供を心掛けている。本番行為をしなくても、した時と同等の満足度を与えられるように意識していた。

 だが、それはあくまでも仕事の一環だ。彼女が言ったことは平たく言えば、相手の気持ちを考えて接する、という当たり前の事を、仕事の枠組みを抜きにして実践している、ということだろう。これを実際に実践しようとなると案外難しい。

 あまりのプロ意識の高さに彼女の整った顔を凝視していると、

「とても風俗嬢には見えないですね。お店のスタッフの方かと思いました」

 耳元でこっそりと彼女が囁いた。

「貴女が勤めているお店で風俗嬢には見えない、というのは風俗嬢にとっては武器だと思いますよ」

 謎かけのような言葉である。それは一体どういうことか、と聞くと彼女はいたずらっ子のような表情を浮かべた。

「それはご自身で考えて答えを出さないと、身にはつかないですよ」

 てっきり答えを教えてくれると思っていた私は、せめてヒントでもください、とお願いしようと思ったところに藤本店長が威勢よく「二人で何を話してるのー⁉」と、突っ込んできた。彼女はクスクス笑いながら「秘密です。」と答えた。

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