第202話 知夏_人生の選択肢
『内定とれてよかったじゃん!おめでとう!』
電話の向こうで嬉しそうに絵麻が言った。陸!知夏が内定決まったって!と陸さんに呼びかけているのが聞こえる。
「ありがとう。とりあえず3つの内、2つに絞ったんだけど、どっちにしようかな、と迷っててさ。」
『どんな感じの条件なの?』
私はそれぞれの内定の条件を伝えた。絵麻は頷きながら、あー、なるほどね、と言った。
『各条件を項目ごとに描いてさ、〇✕を付けていって、〇が多い方にしたら?』
「あー、年収が〇か✕かみたいな?」
『そうそう。微妙だったら△にしたらいいんじゃない。私、今働いてる場所をそれで決めたよ』
「そうなんだ」
『迷ったら感情はいったん横に置いといて、考えるのも有りだと思う。まぁ、参考程度に』
私はありがとう、と言って電話を切った。部屋に置いてある時計で時間を確認するともう21時だ。さすがに今から優太に電話をかけるのは迷惑だろうか。
私は迷った上で、電話をかけても大丈夫かショートメッセージを送った。するとすぐに電話がかかってきた。
『どうしたの?』
後ろがすごくガヤガヤしていてうるさい。誰?誰?と遠くから声が聞こえる。
「あ、ごめん、取り込み中だった?」
『いや、全然、取り込んでない。ちょっと待ってて』
優太どこいくのーっ、と背景で男の人の声が聞こえて、私は思わず噴き出した。背後の喧騒が次第に遠ざかっていく。
「飲み会中だった?」
『そうそう。会社の同期と』
「優太どこいくのーっ、だって。前に居酒屋であったイケメンの千早さん?」
『いや、そいつもいるけど、うるさいやつは大和。え、ってかあいつってイケメン?』
「イケメンだよ。背は高いし、色黒で顔立ちハッキリしてるし。セクシーだよね」
『…そりゃあ、まぁ、そうだけど』
「なに拗ねてるの」
おかしくて笑ってしまった。見た目はあんなに男らしいのに、子供っぽいところが可愛らしい、と思ったがそれを言うと更にむくれそうなので黙っといた。
「飲み会中にごめんね。急ぎじゃないから、明後日会うし、その時で大丈夫だよ」
『いや、あ、そしたら、23時くらいに電話してもいいかな。それくらいには家にいると思うから。』
「明日も仕事じゃない?遅くに悪いよ。」
『いや、全然大丈夫。明日、会社にいけば土日だから』
「そう。じゃあ、待ってる。電話してくれてありがとう」
電話を切ると、戸棚からノートとペンを持ってきて絵麻が教えてくれたように、項目を並べて〇✕を付けていった。給与、残業時間、仕事内容、立地、働き方等々。特に仕事内容に関しては細かく箇条書きにして〇と✕を付けていく。しかし、〇の数はほとんど変わらなかった。
私はいったん諦めて、お風呂に入るとそれぞれの会社で働いた場合の私をイメージしながら湯船につかった。
23時少し前に優太から電話がかかってきた。
「もしもし」
『遅くにごめんね。』
「いや、こっちこそ飲み会中にごめんね。もう家?」
『うん』
「おかえり」
ただいま、と嬉しそうな返事が返ってきた。私は内定が決まったこと、どっちを選ぶかで迷っていることを伝えた。優太も絵麻のように喜びながらお祝いの言葉を言ってくれる。
『面談ができるかお願いしてみたら?』
「面談?」
『言い方が合っているのかわからないけど、うちの会社、新卒とか中途採用した人が入社する前に社内の人と話せる場、みたいなのがあるよ』
「へぇ、そんなのがあるんだ」
『俺も新卒の子、相手に話したことある』
「そういうの良いね」
『知夏がもらった内定先、エージェント挟んでいるなら、その人にできるか聞いてみたら?』
「そうね。そうしてみる。ありがとう」
また明後日に、おやすみ、と言って電話を切った。
なるほど。人材会社の方では最終面接を受ける前に、ミスマッチを防ぐために社員の人と面談をする場が設けられていたが、介護医療器の会社では面接は3回だけで、カジュアルに話す場はなかった。
私は松永さんに正直に、迷っているので可能なら社員の人と話したい、とメールに記載して送った。




