第166話 知夏_幸せな人生の終わり方
私は初めて人の手が加えられる前の死んだ人の顔を見た。死んでいるとは思えないほど、安らかで満足そうな顔をしている。
いつも朝の6時から7時の間に来るはずの、冷蔵庫を開閉したことを知らせる通知がイチ兄と父さんのアプリに届かず、私は父とハル兄と一緒に様子を見に行った。
最初はただ寝ているだけかと思って、ホッとした。しかし、ハル兄はすぐに祖母に声をかけ、脈拍を確認すると救急車を呼んだ。
到着した救急隊員にハル兄はテキパキと応え、病院に付き添った両親の代わりに、自宅で亡くなったため事情聴取に来た警察の対応を行った。
私は何を手伝えばいいのかわからず、邪魔にならないよう突っ立ったままその様子を見守っていた。きっと職場で何人もの高齢者を見送ってきたのだろう。ハル兄は落ち着ていて慣れた様子で必要な作業をこなしていった。
私は有給が溜まっているから、と嘘をついて5日間仕事を休むことにした。
お通夜は行わず、3日後に祖母の家で葬儀を行った。祖母の友人はすでに亡くなっている方も多く、存命の方でも高齢のため施設に入っている人が多かった。それでも訃報を聞きつけた祖母の友人たちが車椅子に乗って、もしくは杖をついて駆けつけてくれた。
速やかに祖母の友人知人に連絡ができたのも、ハル兄がこの時に備えて、祖母の友人の連絡先をあらかじめ作成していたから、ということを葬儀の準備をしている時に知った。
祖父の7回忌でお経をあげてくれたお坊さんのお経を再び聞きながら、私は祖母が羨ましく思えた。
享年93歳。大往生だと思う。
もちろん、亡くなってしまったことは悲しい。しかし、それ以上に、満足げな顔で永遠の眠りについた祖母の顔が強烈に印象に残った。
祖母は祖父と同じような形で人生の幕を閉じた。認知症になることもなく長年連れ添った祖父を想い続け、ひ孫達に囲まれて「なんの悔いもない。」と言って死んだ私のばあちゃん。
どんな人生が理想か、それは人によって答えが違うだろう。でも私にとっては間違いなく祖母の生き方は最高に理想的だった。
葬儀を終えて遺品整理をある程度手伝った後、金曜の夜に西日暮里の家に帰宅した。2日間で帰省するつもりだったが、丸々一週間実家に帰省していた。
こんなに長く今の仕事を休んだことは初めてだった。実家に戻ったことですっかり感覚が昔の私に戻っており、風俗嬢の仕事に戻れるか一抹の不安がよぎる。ちょうど昨日から生理が来たので、風俗嬢としての出勤は来週の火曜日から始まることに少しだけホッとした。
私はパソコンを開くと、ハル兄が話していた介護について調べた。介護と言っても様々なものがあり、とりあえず施設と在宅に分けられるということが分かった。
しかし、そこから先は種類が多すぎてよくわからない。介護職の仕事に多少の興味が湧いたが、それ以上に祖母の家の冷蔵庫についていた見守りセンサーに興味が湧いた。私は見守りセンサーをネットで調べていくと、驚くほどの種類がヒットした。
色んな製品のページをみて一番驚いたことは、IT化が進んでいることである。介護と言えばスタッフが手取り足取り介助するイメージしかなかったが、今では実に多種多様な介護専門の機器が販売されている。なんてハイテクなんだろう
私は転職エージェントの鈴木さんと松永さんにメールを送った。介護関係のIT商材に興味があります。そのような求人はありますか、と。




