第165話 知夏_最後の夜
甥っ子達が風呂から出てくる頃には、夕飯の準備が整い食卓にはちょっとしたご馳走が並んだ。ちらし寿司、お刺身、人参の葉っぱの天ぷら、根菜の煮物、から揚げ、ワラジカツ。
お酒が入っているせいもあり、つけっぱなしのテレビの音が聞こえなくなるほど賑やかな団欒だった。
夕飯がひと段落すると、父が祖母の前にパソコンを置きZOOMを開いた。今日の法事には父の妹である光枝叔母さんが来る予定だったが、叔父さんが急性盲腸で入院してしまったためやむなく欠席している。
ZOOMが繋がると叔母さん夫婦と娘の由美ちゃんが写った。
「光枝はテレビに出ているのかね?」
画面の中で手を振って話しかけている光枝叔母さんを見て祖母が言った。
「母さん、違うよ。これはテレビ電話みたいなやつだよ。」
父が苦笑しながら説明している。祖母は理解したのかしてないのかわからないが、ニコニコしながら頷いている。
今日、叔父さんが退院できたそうで入院生活の話や、由美ちゃんが最近飼い始めた猫の話、叔母さんの昔の思い出話などが画面越しに聞こえてくる。私たち兄妹と姪っ子、甥っ子たちはおばあちゃんの後ろから入れ替わりたちかわり顔を出しては手を振っていく。
ZOOMが終わると祖母は満足げに言った。
「みんなが来てくれて幸せだ。なんの悔いもない。」
その言葉を両親はハイハイ、と受け流し、甥っ子が「ひいばあちゃん、いつもそれ言ってるよね」と言った。
祖母は寝る支度をはじめ、寝室へ向かおうとするところをカズ兄が声をかけた。
「ばあちゃん、久々にお姫様抱っこしてあげるよ。」
祖母は恥ずかしそうに、でも笑顔で笑い声をあげながらカズ兄の手で運ばれていく。私はその後をついてき掛布団をめくると、カズ兄は思いのほか優しい手つきでそっとベットに祖母を下した。
口をもごもごさせてる祖母に「おやすみ」と声をかけると、祖母はゆっくり手を振りながら「ありがとう。おやすみ」と言った。
父とイチ兄一家とハル兄一家と一緒に実家まで歩いて帰り、カズ兄は母の車で駅まで送ってもらっていた。私は一華ちゃんの部屋で一華ちゃんと一緒に習慣となっている筋トレやストレッチをやり、彼女の恋バナで大いに盛り上がった。
日付が変わる頃に、私は居間に布団を引いて床についた。家族や親せきに囲まれて賑やかで楽しい日だった。明日、もう一度、祖母の家に寄ってから帰ろう。そう思いながら眠りに落ちた。
そして次の日の朝、祖母が亡くなった。




