第164話 知夏_家族になるということ
「あー、俺、結婚するわ。」
3人分の「えーっ!!」という声が居間に響く。
「おめでとう!」
「いつ籍入れるの?」
「もう両親には挨拶したの?」
私たちからの質問攻めにカズ兄は、照れくさそうに答えた。
「籍はまだ。今日、親に報告して段取りはこれから決める。」
「おぉ。付き合ってどのくらいだっけ?」
「もう5年かな。」
「彼女さん、いくつだっけ?」
「30だよ。」
「え!私と同い年じゃん!」
兄たちのやりとりに耳を傾けていたが、カズ兄のお嫁さんが私と同い年と知って思わず声を上げる。
「その人、どうしてカズ兄を選んだのかな。こんなにデリカシー無くて筋肉のことしか頭にないのに。」
「お前な…」
テーブル越しに襲い掛かってきたカズ兄のデコピンを条件反射で避ける。
「なんで結婚しようと思ったの?」
イチ兄の質問にカズ兄は天井を見上げながら、まぁ、と答えた。
「この前、彼女の友人家族とグランピンに行ってきたんだけど、その時に結婚してもいいかなって思った。」
「どうして?」
「まぁ、正直、彼女の友人家族達とは気が合うとは言えないタイプの人たちだったけど、彼女が大事に思っている友人たちなら、俺もそれに合わせてもいいかな、って思えたからかな。兄貴たち見て思ったけど、結婚したら親戚づきあいや、相手の友人付き合いって避けて通れないじゃん?俺の苦手なタイプが彼女の友人や親族にいても、それでもいいから、一緒にいたい、って思えたからかな。」
はにかんだように笑うカズ兄の頬は赤い。きっとビールを飲んでいるせいではないだろう。意外だった。いつもふざけてデリカシーのないカズ兄が、そこまで彼女を大事に思っているとは。
仕事で合わない人と合わせる努力をすることならわかる。しかし、プライベートで貴重な時間とお金と体力を費やしてでも、合わない人々の中に身を置くことにどれだけの価値があるのか。…いや、きっと彼女さんのためならそれをしてもいい、というくらい兄にとっては彼女さんが価値ある存在なんだろう。
「そうか。おめでとう」
イチ兄がカズ兄にグラスを差し出した。私もハル兄もカズ兄にグラスを差し出すと全員で音を鳴らしてぶつけ合い、一気に飲んだ。
「そういえば知夏は最近どうなんだ。彼氏はいないのか?」
「いないよ」
イチ兄の質問に笑って答えた。
「好きな人もいないのか?」
「…いないよ」
言い淀んだ私に、カズ兄がオッという顔をしたが無視をした。
「彼氏ができたら連れて来いよ。兄ちゃん達が品定めしてやるからな」
思わず私は笑った。
「イチ兄、私、もう30歳だよ。」
過保護気味で気のいい兄達が私は好きだ。
私が大学生の頃、付き合っていた彼氏を実家につれてきたときに、すでに社会人だった兄たちがわざわざ雁首揃えて待ち構えていた時があった。当時の彼氏はすっかり緊張してしまい、あれは可哀そうだったが、今となっては懐かしい思い出である。




