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第162話 知夏_ピンピンコロリの人生

 16時少し前にお坊さんが来て、7回忌の法事が行われた。他の家庭では何回忌までやるかわからないが、父方の親族は7回忌で区切りをつけている。ちなみに母方の祖父母はすでに他界しているが、3回忌でいったんの区切りをつけた。

 お坊さんのお経を聞きながら、私は久しぶりに祖父のことを思い出した。

 祖父の晩年は介護を受けることもなく、矍鑠と元気にすごしていた。毎日、飼っていた柴犬のシバと散歩に行き、近所の人達と集まって麻雀や将棋を行い、漬物をあてに好きな地酒で晩酌を行っていた。

 祖父が飼っていたシバは当時、15歳と人間の年齢にすれば中々の高齢で、人間と犬の高齢者同士、散歩もすごくゆっくりしたペースでだったことを覚えている。

 祖父はいわゆるピンピンコロリで亡くなった。庭先で倒れてた祖父に気づいたシバの鳴き声で祖母が発見した。医者の話では心臓近くの血管が破裂したことが原因とのことだった。

 苦しまずに亡くなった、とのことで祖母が「理想的な死に方だねぇ」と言いながら泣き笑いしているのが印象的だった。祖父の後を追うようにシバも1年後に亡くなった。

 その時の祖母はさすがに気落ちしていた。ちょうど、イチ兄の奥さんが4人目を身ごもったのを契機に同居話が持ち上がった。

 そもそも実家とイチ兄の家は徒歩圏内なので、祖母の家ともご近所なのだ。イチ兄の家族と、祖母が私の実家に住めば、面倒を見る必要がある人が同じ屋根の下にいるわけだから、両親やイチ兄夫妻にとっては都合がよい。

 多少手狭になるが、私たち兄妹がそれぞれ自立してから部屋も余っているし、なんなら祖母の家をリフォームして、実家の家は売っても良いという話を本格的に進めていた。しかし、祖母は頑として同居を認めなかった。

 祖父と一緒に過ごした家を離れることも、家に手を加えることも認めなかった。祖母の足腰を心配して手摺やスロープを付けることを父は強く勧めたが、それも嫌がった。

 ヘルパーさんに来てもらうことにも強い嫌悪感を示した。祖母の頑固さに普段は温厚な父がさすがに怒ったが、それを解決したのがイチ兄の奥さんだった。

 奥さんはイチ兄と一緒に営んでいるお店が終わるまで、子供たちを見ていて欲しい、何か困ったことがあれば子供たちに言って欲しい、と祖母に言い、そしてこっそり、子供たちには、ひいおばあちゃんのお手伝いをして欲しい、と言ったそうだ。

 祖母としてもひ孫がくることは大歓迎だったので、その提案はすんなりとうけいれられた。イチ兄家族が両親と同居を始めたことで、甥っ子姪っ子たちは学校に向かう途中で祖母の家の前を通るようになった。

 学校に行く前に姪っ子と甥っ子は、祖母の家に顔をだし、学校が終われば友達を連れて広い家を探検したり、近くの雑木林で遊んだり、宿題をしていた。

 これはかなり良い相乗効果があったようで、祖母は90歳を超えてもボケることなく、身の回りのことはほとんど自分で行えるし、姪っ子も甥っ子も面倒見がよく、優しい子に育っている。

 祖母はそんな生活に満足しているようで、お正月に帰省するたびに

「なんの悔いもない。後はぱったりと死んでじいさんの後を追うだけ。」

 と何度も言っている。

 私は祖父が亡くなった時に祖母が言った、「理想的な死に方」がずっと心に残っている。

 どのように生きるかは自分で選択はできても死に方は選べない。私も死ぬのなら祖父のように人生を楽しんでから、ピンピンコロリで死にたい。

 そして、祖母のように孫やひ孫に囲まれて、穏やかな余生を過ごすことは今の私からしたら強烈に憧れた。

 1時間ほどで法事が終わると、動きやすい服装に着替え夕飯の支度を手伝った。

 私は庭先で祖母が育てている紫蘇と、立派な葉をつけた人参を収穫した。カズ兄が人間メリーゴーランドよろしく、甥っ子たちを振り回して遊んでいる。子供たちの楽しそうな笑い声が夕焼け空に響いてのどかだな、と思いながらその様子を見つめた。

 キッチンには母と兄達の奥さんたちが手際よく夕飯の準備を進めており、手持無沙汰になった私は父と兄たちが先に始めている晩酌に混ざろうかと思い冷蔵庫を開けた。とりあえずチューハイの缶を取り出すと、冷蔵庫に変な機械がついていることに気づいた。

「お母さん、冷蔵庫になんか変なのついてるよ。」

 私は紫蘇を細かく刻んでいる母に声をかけた。母は首だけこちらに向けると、少し目を細めて私が指さしているものを認めると、あぁ、それね、とつぶやいた。

「それは、ばあちゃんのだからいいのよ。お兄ちゃんに聞いてごらん。」

 母はそう言うとすぐに料理の続きに戻った。いや、私のお兄ちゃん3人もいるんだけど、どれよ?と不満を掲げつつ、お酒を手に居間に向かった。


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