第156話 優太_君がいるだけで
3時間の予約のうち2時間があっという間に過ぎた。前日から仕込んでおいた豚の角煮を一緒に食べ、お笑い芸人のYouTubeを見ながら爆笑していたら、早くも14時だ。さっきから隣に座っている知夏が、そわそわとこちらを伺うように見てくる。
「どうしたの?」
「…いや、やらなくていいのかなぁ、と思って」
「したい?」
「そういうことじゃなくて」
ちょっとムッとしている。おいで、というと素直に来るのが可愛い。俺は胡坐の上に知夏を抱きかかえるようにして座らせた。知夏は俺の胸にもたれかかりながら言った。
「その分のお金を頂いているわけだし、ご飯ごちそうになっただけなのもなんかなって」
「生理の時はいつもそうじゃん?」
「そうだけど」
申し訳ないな、って思うんだよ、と彼女は言った。
「別に俺は知夏とやるためだけに会っているんじゃないよ」
え、じゃあ、なんのために指名してくれるの?といった表情で見上げてくる。俺の気持ち、全く伝わっていないんだろうな、と思いながら抱きしめた。
「こうやって、くっついているだけで結構満足してるの」
「それはおじいちゃんの心境だね」
「あ、前に話してた80歳のお客さん?」
「そうそう」
「そうかもしれない。」
知夏は声をあげて笑った。俺はそんな彼女の頭を撫でながら言った。
「じゃあ、この後買い物に付き合ってよ」
「いいよ」
俺の提案に快諾してくれる。欲しいものは特にないが、少しでも彼女と長く一緒にいたかった。
しかし、今日はやらなくていいよと言ったが、俺の膝の上に乗せているとそういう欲望が湧いてくる。しかし、あと1時間しかない。手早く済ませようすればできることだが、俺は彼女を丁寧に扱いたかったので我慢する。
彼女は俺に体重を預けたまま、俺の手を握ったり離したりしている。おれはソファーに寄りかかったまま自由にさせた。
ふと、つい先日、背中につけてしまった痕はどうなっただろうかと思い、知夏が着ている紺色のニットを後ろに引っ張って中を覗き込んだ。
「え、なに?」
服が伸びるよ、と彼女の文句を聞き流し左肩の下あたりを確認する。4日前につけた後はまだうっすらと残っていた。
「いや、この前付けちゃった痕、どうなっているかなと思って。」
「…まだ残っているでしょ」
怒ったように知夏は唇を尖らせた。
「ごめんね」
「なんで嬉しそうなの」
思わず口元に手をやった。無意識のうちに口角が上がっていたらしい。ぷりぷり怒っている知夏のパンチを手のひらで受け止めながら笑っていると、テーブルの上に置いてある携帯が突然鳴りだし、俺も知夏も肩を震わせた。画面を見ればゆずからの着信だ。俺は伸ばしかけた手を咄嗟に止めた。
「あ、もしかして彼女?私、ベランダに出ているから気にしないで。」
俺の返事を待たずに、素早く膝の上から降りると知夏はベランダに移動した。俺は申し訳ない気持ちになりながらも、なぜこのタイミングでゆずから電話がかかってくるのか不安を感じながら、ベランダのドアが閉まったのを確認して電話にでた。




