第148話 優太_抱き合う午後
照明が不要なくらいお昼前の明るい太陽の日差しが寝室を明るく照らした。いつも日の光が絶対に入らないラブホテルで過ごしていたから、ものすごく新鮮だった。
「…カーテン閉めて」
下着姿を掛け布団で隠すようにくるまりながら知夏がカーテンに手を伸ばした。
俺は脱がしたばかりの知夏の服をシワにならないように畳みベットサイドテーブルの上に置くと、閉められたカーテンを再び全開にした。
「ちょっと」
ムッとしている知夏に笑いかけ、レースのカーテンだけ閉めると掛布団をはぎ取る。ベットの上に寝そべった知夏を下にして膝立ちながらじっくりと眺めた。
初めて見る下着を身に着けている。淡い黄色に華やかな花柄の刺繡が施された上下お揃いのものだ。腹筋にうっすらと縦線が入っているのが見えて、真面目にトレーニングをしていることがうかがえた。
「…見すぎ」
そわそわと落ち着かない様子で、俺の手を引っ張ってきた。知夏に覆いかぶさり至近距離で見つめあう。
「その下着、新しく買ったの?」
「うん」
「今日来ていたワンピースも」
「うん」
「もしかして俺のため?」
「自惚れすぎ」
自惚れても何でもよかった。ただただ嬉しくて幸せで、でもこうしているうちに時間は刻一刻と過ぎていくわけだから、時間が有限なだけにこの瞬間がもったいないような、愛おしいような不思議な気持ちだった。
いつも以上に丁寧に触れると、知夏が気持ち良さそうに目を閉じる。俺が指や舌を動かすたびに反応する体も、言葉以上に表情豊かなこの顔もたまらなく愛おしかった。
下着が汚れないよう脱がした時には知夏はすっかりできあがっており、あっという間に果ててしまった。声を我慢するたびにお腹にグッと力を入れている様子がいじらしくて、俺はどうやったらもっと声を出させることができるんだろうと、意地悪な気持ちでさらに攻めた。
ここがマンションだから知夏は隣を気にしているのかもしれない。しかしお隣さんがどう思うがそんなことはどうでもよい。
知夏は喘ぎながら涙をたたえた目で懇願するように見つめてきた。少しいじめすぎたかもしれない。おでこにキスをするとうつぶせにし、いつみてもスベスベで綺麗な背中をなぞりながら知夏の呼吸が落ち着くのを待った。
体の内側から不意に強い衝撃が沸き上がり、知夏の左肩の下あたりに歯を立て強く吸った。驚いたように知夏が起き上がろうとしたが、体重を重ねて抵抗を押しとどめる。止めて、という声が聞こえたが頭までは届かなかった。
口を離した時には、知夏の白い肌にしっかりと後が残っていた。こんな風に誰かに対して独占欲を行動に移したのは初めてで、コントロールが効かない欲望に俺自身が戸惑った。
「うそでしょ!」
知夏は跡がついた箇所を確認しようと首をねじった。
「ごめん、つい…」
急に湧き上がった欲望は同じスピードで急激にしぼんでいった。
「ごめん、怒ってる?」
信じられないという表情で知夏は左肩を見ていたが、大きなため息をつくと仰向けに向き直った。ちょいちょいと手招きされ顔を近づけると、思いっきりデコピンを食らった。
「いたっ」
予想以上の痛さにおでこを押さえると、少しムッとした顔で知夏は言った。
「これでおあいこ」
「ごめん、怒ったよね…?」
「怒ってないよ。首筋につけなかっただけでも偉い」
相変わらずムッとしている表情で言いながら、俺の頭を抱き寄せてよしよしするようになでてきた。
ほんとうに、すごくすごく大事にしたいという気持ちと同じくらい、知夏が泣くまでめちゃくちゃにしてやりたい、という相反する気持ちが入り乱れて自分でも上手く収集がつかなかった。こんなに自分の感情に振り回されるのはいつ以来だろうか。
「ほんとに怒ってないよ」
笑いながら知夏が言い、俺のおでこにキスを落とし、少しホッとした。
とにかく大事にしようと知夏の中に入っている時は激しくならないよう、必死で自分を押さえた。しかし、声を我慢する余裕もない知夏の姿はどうしようもなく俺を興奮させ、最後は自分を抑える努力も虚しく配慮することができなかった。
お互いぐったりしながら抱き合い息を整えているさなか、俺は深い充実感が体の隅々までいきわたるのを感じていた。
腕の中の知夏を見ると少しウトウトとしているようだ。好きな人とこうやって気だるい体を共有しながら満たされた時間を過ごす、なんて幸せなことなことなんだろう。




