第147話 優太_好きです、とは言えなくて
「お誕生日おめでとう。これ誕生日プレゼント」
「え!いいの?ありがとう」
もらえるとは思っていなかったので心底びっくりした。さっき荷物を持つのを断られたのは、俺へのプレゼントだったからか。
受け取った紙袋から中身を出すとずんぐりむっくりした幹に鮮やかな葉がついた観葉植物だった。
「え、めっちゃいい!ありがとう!」
「パキラは金運アップにもいいよ。」
莉奈さんが指でお金のマークを作りながら説明してくれた
「頻繁に水をやらなくていいから管理は楽だと思う」
「…ありがとう、嬉しくて、もらえるとは思ってなかったから」
わざわざ買いに行ってくれたことに、涙が出そうになるほど嬉しかった。俺の部屋のインテリア知っていたのかな、と思うほど黒っぽい石みたいな鉢植えは部屋に良くなじみそうだ。 じっくりと眺めていると、あることに気づいた。
「え、まって、これってもしかしてこの前ロフトで俺が見てたやつ?」
「あ、やっぱバレた?大したもんじゃなくてごめんね」
両手を合わせながら莉奈さんが言った。全くもって大したものじゃない、なんてことは無い。 俺がいいな、と思ったものを覚えて選んでくれたこと自体が嬉しくてならない。
「あと、これはおまけなんだけど」
ハンドバックを開けてラッピングされた袋を出してきた。
「こっちは私の趣味だから本当におまけみたいなもん。よかったら使って」
一瞬言葉に詰まり、そっと袋を受け取った。
「開けていい?」
「もちろん」
青いリボンをほどくと中から革でできた、グレー色の筒のようなものが出てきた。おもわずかっこいい、とつぶやいてしまう。
「元々の趣味というか、革製品を作るのが好きで学生のころからよく作ってて。ペンケースなら邪魔にならないと思うし、文房具じゃなくても小物入れでも使えるかなって・・・」
珍しく早口で莉奈さんがまくしたてるように話した内容を聞き、驚きのあまり思わず声を上げた。
「え、これ作ったってこと?」
黙って頷く莉奈さんをみて驚きが隠せない。人生で初めての手作りプレゼント。
俺はそっとペンケースのベルトを外し中をみた。思いのほかたくさん入りそうだ。革製品なのに良く手になじむ。
「プロじゃん!すごい!」
「…もしよかったらあげる」
遠慮がちに言う姿をみて、不覚にも鼻の奥がツンとなった。
「あー、うれしすぎてやばい」
もらったペンケースをテーブルの上に置き、涙を見られないように顔を手で覆ってソファーにもたれかかった。
「喜んでもらえたようで良かったよ」
ポンポンと肩を叩かれて、俺は手を下すと莉奈さんを膝の上に乗せた。 今まで何度も莉奈さんを膝の上に乗せたけど、今日ほど愛おしく思った事は無い。
わざわざ手間をかけてまでプレゼントを手作りしてくれたことに感動した。
きっとこれを作ってくれている時は俺のことを考えてくれたんだろう。俺のために時間と労力を費やしてくれた、その事実が震えるほど嬉しくてならなかった。しかも仕上がりはプロの職人が作ったかのような出来栄えだ。
「そんなになくほど嬉しい?」
からかうように莉奈さんは言って、俺の目を指でぬぐった。
「今、すごい感動している」
この感動をどう伝えたら、ちゃんと伝わるんだろう。きっと莉奈さんが想像しているより何十倍も嬉しくって、思いっきり嬉し泣きしたい気分だ。
泣き顔を見られたくなくて莉奈さんの頭を抱き寄せキスをすると、すぐに舌で唇を割った。こうなったらもう止められなかった。
続く深いキスに苦しそうに莉奈さんが抵抗してきたが、俺は無視して莉奈さんを抱きしめている腕に力を入れた。
お互い顔を離した時には、莉奈さんは潤んだ目で息を弾ませていた。
どうしようもなく、好きです、と告白したい気持ちに駆られた。以前、大和と千早と話した時に「風俗嬢は客に夢を見せるのが仕事」と言われた言葉を思い出した。確かにそうかもしれない。 俺が好きになったのは風俗嬢としての莉奈さんなのかもしれない。
でも、仮にそうだとしても知らないことはこれから知っていけばいい。 俺にもたれかかるようにして抱き着いている莉奈さんの頭をなでながら、震える声で一つお願いをした。
「あの、誕生日なので一つだけわがまま言ってもいい?」
「なに?」
「本当の名前を教えて欲しい。莉奈さんの本当の名前を呼んで一緒に過ごしたい」
上体を起こした莉奈さんの目が、一瞬大きく見開かれ左右にゆれた。動揺が手に取るように伝わってくる。
俯いてしまった莉奈さんを目の前に後悔の念が沸き起こる。源氏名で仕事をしている職業の人に本名を聞くのは褒められた行為ではないことはわかっている。
しかしどうしても知りたかったが、あぁ、困らせてしまっただろうか。
しばらくして俯いていた顔をゆっくり上げて莉奈さんはつぶやくように教えてくれた。
「ちなつ。夏を知る、と書いて知夏」
最初に驚きが、そして徐々に暖かい気持ちが体中を駆け巡った。
「知夏さんかぁ」
夏を連想させる名前に俺はしっくりくるものを感じた。こんなことを言ったらポエマーと言われかねないが、初めてあった時から向日葵みたいに明るく元気にさせてくれる人だと思っていた。
「…呼び捨てでいいよ」
初めてはにかんだ笑顔をみた。俺は嬉しくて本当の名前を呼んだ。
「知夏」
微笑んで知夏は俺にキスをした。俺もお返しに今度は優しくそっと唇を重ねた。幸せで満たされたキスだった。




