第146話 優太_君を迎える日
誕生日の過ごし方について色々とプランを考えた。
丸一日貸し切りをするのだから、日帰り旅行も楽しそうだと近場の観光地を調べたが、結局部屋でゆっくり過ごすことにした。 今まで好きな人と一緒に過ごした誕生日は、からなず外出をしていた。
学生の時に付き合っていた彼女ともどこかに遊びに行き、去年はゆずと一緒に草津温泉に一泊二日の旅行、今年は一泊二日で海釣りに行く予定だ。 アクティブに動き回ることはものすごく好きだが、せっかくなら人目をはばからず二人っきりで過ごしたい。
莉奈さんからはいつも癒しと元気をもらっているから、お返しになるかはわからないけど手料理をふるまっておもてなしをしよう。
荒川に向かって住宅街を進んでいくと目の前に土手が広がり、右に曲がればすぐに家についた。築40年たつ3階建てのアパートは見た目はそれなりにぼろい。
黙ってアパートを見上げている莉奈さんに、弁解するように話した。
「ちょっと古いんだけど、中はリフォームされてるからきれいだよ」
アパートの中に入り部屋の前に着くまで、莉奈さんは黙ったままだった。莉奈さんからしたらお金持ちの家に招かれることも多くあるだろう。それに比べるとなんてぼろいんだろう、とがっかりさせてしまっただろうか。
「どうぞ」
俺は不安を覚えつつ、ドアを開けた。フレグランスを置いたおかげで、いい匂いが風に乗って流れてきた。
「お邪魔します」
莉奈さんは脱いだパンプスをきっちりそろえて玄関の端に置いた。前々からちゃんとしている人だな、と思っていたけど、こういう所を見ると育ちが良いんだろうなと思う。
莉奈さんが玄関マットの上で待っていてくれる間、俺は莉奈さんが履いている白いレースの靴下を見ながらスニーカーを脱いだ。
パンプス用の靴下なんだろうか。足の甲全開で踵と足先しか覆われておらず、今にも脱げそうな形をしている。いつもはストッキングをはいているから珍しいな。
「一応片付けたんだけど、汚かったらごめんね」
莉奈さんを追い越しリビングに続く扉を開けながら、俺の部屋を見てなんて言われるのか緊張で手汗をかいていた。
南向きのリビングは太陽の光が良く入るので明るい。莉奈さんはぐるりと部屋を見渡して感心したように振り向いた。
「おしゃれだね。モデルルームみたい!」
はしゃいでいる響きを言葉から感じ取って俺はホッとした。
「そんなことないよ。全部ニトリと無印だし」
「私の部屋もベットとかタンスはニトリのやつだけど、こんなにおしゃれではないや」
大きな目をきょろきょろ動かしながら好奇心いっぱい、といった様子で部屋を眺めている莉奈さんを後ろから眺めて、たまらなく抱きしめたくなった。
しかし、待ち焦がれていた莉奈さんと一緒に部屋で過ごすというシチュエーションになったにもかかわらず、初めての彼女を部屋にあげた高校生の時みたいに緊張して、ただただ突っ立っていた。
振り返った莉奈さんが急に俺に駆け寄って勢いよく抱き着いてきたの、で心臓が破裂するかと思った。
「部屋にあげてくれてありがとう」
俺は口にキスするのをぐっとこらえて、莉奈さんの頭頂部にそっとキスをした。お返しと言わんばかりに頬にキス返してくれる莉奈さんを強く抱きしめた。あー、もう、可愛いすぎ。
「なにかお茶飲む?」
腕をほどきながら聞き、頷いた莉奈さんにソファーに座っててと声をかけると、キッチンへ紅茶の準備をしに行った。
ティファールでお湯を沸かしていると莉奈さんがキッチンにやってきて、後ろから抱き着いてきた。
「何か手伝うことある?」
「大丈夫だよ。座ってて」
背中に当たる胸の感覚をどうしても意識してしまい、俺は瞑想よろしく心の中で九九を唱えだした。 しかし、莉奈さんは離れるどころか俺が移動するたびにピッタリくっついてくる。
「なに、なに」
ついに俺はおかしくなって笑ってしまった。
紅茶の準備が整い、お盆に乗せてキッチンを出ようとすると、さすがに莉奈さんは離れて俺の後をついてきた。 お盆をソファー前に置いてあるローテーブルにおき、クッションを置いて座るよう勧める。
「モチモチして座り心地いいね」
クッションを触りながら莉奈さんが言った。
「お値段以上~ですから」
「さすがニトリ」
思ったよりも庶民的な感覚で笑った。今の振りでわかってくれたのが嬉しい。
ティーカップを並べてると、ニヤリと笑いながら莉奈さんが聞いてきた。
「もしかしてそれも?」
「お値段以上~」
「ニトリ」
お互いCMの曲を歌うと可笑しくて笑いあう。
「これ、手土産のお菓子。ニトリではないけど」
莉奈さんからチューリップが描かれた箱を受け取ると思わず凝視した。これ結構良い値段するやつじゃない?
「ニトリより高給じゃないですか」
驚きを隠すようにわざとふざけて言った。
「わざわざありがとう。これ美味しいやつだよね」
「あ、知ってる?」
「この前、会社の同期が一個くれたんだ」
正確にはダイエット中にも関わらず、スイーツには目がない圭介がどうしても食べたいというので、4個入りを割り勘で買って同期の4人組で食べたのだ。
紅茶を飲みながらチューリップの形をしたクッキーを食べ、俺は最近会社であったことや同期のことを話した。 莉奈さんはいつだって楽しそうに俺の話を聞いてくれるので、ついつい話し過ぎてしまう。俺ばっかり喋ってしまったな、と思ったところで莉奈さんが紙袋を両手で差し出してきた。




