第145話 優太_誕生日当日
誕生日当日、雲一つない快晴。
家を出る前にざっと部屋を見渡し、散らかっていたり汚れていないところが無いか確認した。そしてダメ元とわかりながらも鏡の前で髪の毛を引っ張った。
大和が選んでくれたワックスは使いやすく、言われたようにドライヤーをした後に髪になじませると多少はマシになる。
家から北千住駅までは自転車で行けば10分もかからないが、徒歩で向かうと結構かかる。真夏のように暑く、日陰を選びながら駅へ向かう。
開店前の店が立ち並ぶ学園通りを進み、時計を見ると約束の時間より早めにつきそうだ。駅の反対側に通じるトンネルを抜け、待ち合わせ時間である花屋の周辺を見渡すと、少し離れたところに立ったまま本を読んでいる莉奈さんがいた。
すごくきれいな形のワンピースを着ている。首元から胸下まで生地と同系色のボタンがついており、ワンピースと同じ生地でできたベルトを巻いている。
ベルトの位置が高めなので、元々スタイルが良いとは思っているが余計に良く見える。
ベルトから細かいギャザーのスカートが広がっていて莉奈さんが動くたびにスカートがユラユラ揺れてきれいだった。莉奈さんがお気に入りだと言っていた、なんとかトウの絵をモチーフにした黄色いパンプスとよく似合っていた。そして髪の毛の色も長さも変わっていた。
初めて見る服を着ていると思った。もし、俺の誕生日に合わせて服を新調して、髪の毛を染めてきてくれていたとしたら舞い上がるほど嬉しい、とうぬぼれた妄想をしていると、ふと莉奈さんが本から顔をあげた。俺に向かって手を振ってり、慌てて小走りで駆け寄り謝る。
「待たせてごめん」
するとおかしそうに莉奈さんはアハハと笑った。
「いや、まだ約束の5分前だから。全然待ってないよ。」
読んでいた本を鞄にしまいながら、莉奈さんは俺の頭に目をやった。
「髪の毛、パーマかけたんだね」
「いや、これ、おもったより似合ってなくって・・・」
あわよくば気づかれたくないと内心思っていたが、さすがに無理があった。
「そうかな。今の服装に良く似合っているし、おしゃれさんにみえるよ」
莉奈さんは背伸びをすると俺の髪の毛にそっと触れた。俺はこの背伸びをする姿が好きだった。本人は自分の背の低さを気にしてヒールを履くようにしている、と言っていたが小柄で可愛いと思う。
「ありがとう。莉奈さんも髪の毛、染めたんだね」
毛先にそっと触れると、サラッと指の間からこぼれた。いつ触ってもサラサラのツヤツヤだ。髪の色が暗めになったせいか、以前よりずっと若く見える。とても年上には見えない。
「転職活動するから。」
肩をすくめながら莉奈さんが答えた。
「そっか。けっこうバッサリ切ったね。なんか若く見える。」
「黒っぽくしたからかな。」
毛先をいじりながら答えた莉奈さん、ふと俺の胸元をみて笑った。
「そのTシャツ、可愛いね。」
先日、下北で圭介が選んだピザのTシャツを指さして言った。
「あ、これは会社の同期が選んでくれた。」
「この前、話してた下北に服買いに行った時に?」
「そうそう」
自然とお互い手をつないで歩きだした。
自然に手をつなぐ、という行為ができることに俺は感動していた。恋人同士が手をつなぐように指を絡めても拒絶されることなく、むしろ莉奈さんは一歩それに寄り添うように距離を縮めてくれる。
ちらりと莉奈さんを横目で窺った時に荷物を持っていることに気づいて「荷物持つよ」と慌てて手を差し出したが断られてしまった。
荷物持つよ、というのが遅すぎたかな、いや、莉奈さんからしたら、俺は客なわけだから気を使ったのかもしれない、などとモヤっと考えながら学園通りを歩いた。
物珍しそうにきょろきょろしている莉奈さんに、俺がよく行く店や美味しい店、安い店など教えながら進んでいく。好きな人と手をつなぎながら自分が住んでいる街を紹介しながら歩く。楽しい時間だった。




