第141話 知夏_誕生日プレゼント
観葉植物コーナーを物色し、大小様々な鉢植えをみていると部屋に飾りたくなる。滑らかな青色をした焼き物に入っている小ぶりな鉢植えを手に取った。名前はわからないが真っ直ぐな葉っぱが生えている。
「可愛いね。部屋に植物飾ったりしているの?」
「全然。一個くらい飾ってみようかなぁ。優太は?」
「俺も飾ってない。欲しいなと前々から思ってはいるんだけど」
そう言いながら、優太は表面がざらついた岩のような黒っぽい鉢植えを手に取った。ずんぐりむっくりした幹に鮮やかな緑色の葉が生えている。ポップを見るとパキラと書かれていた。
「おしゃれだね」
「これかっこいいな」
「買ったら?」
「いや、まぁ、また今度でいいや」
元の場所に植木鉢を戻すと腕時計を見て、そろそろ眼鏡の時間じゃない?と教えてくれた。私たちは先ほどの眼鏡に戻り、眼鏡を受け取ると一緒に駅に向かった。
「このまままっすぐ帰る予定?」
「うん。帰ってジム行くわ」
「私、表参道で髪の毛切りに行くから途中まで一緒に行こ」
優太は嬉しそうに手を握り直すと、銀座線へ向かった。
「来週の火曜日、北千住駅に9:30だよね?」
空いてる席に座りながら念のため待ち合わせの確認をした。優太が誕生日の日に貸切で予約をしてくれた9月30日。初めての貸切予約ということもあり、私は楽しみにしていた。
「うん。ルミネの近くに花屋があるからそこ待ち合わせで」
「わかった」
「じゃあ、また3日後に」
「またね」
表参道駅で別れると、行きつけの美容院に向かう。風俗嬢になってから通うようになったお店は、カットカラー・トリートメントで2万を超える。
会社員時代には手が届かない金額だったが、今では毎月通える。おかげで髪の毛の状態はかなりいい。しかし、あのクラブのホステスのこなつさんの髪質には及びもつかない。いったい毎月いくらかけているんだろうか、と思う。
美容院のドアを開けるとこじんまりとしたプライベートサロンが現れた。
「あら、知夏ちゃん!いらっしゃい。」
見た目はイケメンなのに中身はオネエ。緩くパーマをかけたタクヤさんがお出迎えしてくれた。この人のジェンダーは一体なんなのか、初めて来たときに気になって聞いてみると、私と同じバイセクシャル、嗜好は同性愛寄りの人だった。私は人生で初めて自分以外のバイセクシャルに出会えたことに感激し、今では絵麻と同じくらい何でも話す仲だ。
ここのサロンは完全予約制の個室なので、他のお客様のことを気にすることなく寛ぐことができる。
「さてさて、今日はどうしようかしら」
私を椅子に座らせながら鏡越しに目線を合わせてくる。私は嬉しくてニッコリ笑いながら答えた。
「転職活動始めるので、暗めの色でお願いします」
「え!?ってことは、借金の返済終わったのね?」
「終わりました!」
二人で喜び合いながらハイタッチをする。
「おめでとう!お祝いに、最高ランクのトリートメントプレゼントしちゃう!」
「やった!ありがとうございます!」
今月あったことをペラペラしゃべりながら、私はガス抜きをした。私はタクヤさんの前だと、話を聞いて欲しい生き物そのものになる。
何かの番組で、女性はとにかく話を聞いて欲しい、アドバイスはいらないから頷いて欲しい、と言っているのを見たことがある。タクヤさんはそのことをよく心得ており、とにかく気兼ねなく話せるので、私にとっては月一のストレス発散の場でもあった。
タクヤさんは最近通い始めたジムにドストライクのキン肉マンがいて、声をかけたくてもドキドキしちゃう、と乙女のような話を聞かせてくれた。話している時の表情が恋する女の子みたいで微笑ましい。
ヘッドマッサージを追加でお願いすると、強めの指圧でしっかりと頭皮をマッサージしてもらった。この指圧やゴツゴツした指先を受けていると、先ほど恋バナをしている乙女から、一気に男という感じがする。
お気に入りだったオリーブベージュから、黒に近い色に染め直し、背中の中ほどまであった髪を鎖骨下あたりまでバッサリ切った。
鏡で私の姿を見つめて、会社員時代に戻ったようだと感じた。それは嬉しく喜ばしくも、どこか寂しいような、惜しいような複雑な気持ちになった。
美容室を出ると行きつけのプロテイン専門店に向かい、いつも飲んでいるプロテインを購入すると渋谷に戻った。ロフトに到着すると真っ直ぐ観葉植物のコーナーに向かい、優太が手に取っていた観葉植物をレジに持っていく。
優太の誕生日プレゼントに革で作ったペンケースを用意していたが、久しぶりに作ったので手先の感覚が思ったより鈍っていた。出来栄えは悪くはないが、普段の感謝の気持ちも込めてもう一つ何か贈り物をしたかった。
誕生日カードを付けるか迷ったが、万が一、優太の彼女であるゆずさんに見つかったら、余計な火種になり得るので止めとこう。
買い物を済ませ、再び銀座線へ向かう。表参道駅で乗り換えて千代田線に乗ると、携帯を取り出し鈴木さんと松永さんから届いている求人票に目を通した。




