第140話 知夏_デートのような時間
毎週末、優太と予約時間いっぱいホテルで過し、次の予約が無ければ一緒にランチを食べ、時には買い物をする仲になった。
仕事に対して緊張感が緩くなっていた私は、この関係を楽しく思うようになっていた。ご飯を食べたり買い物をしていると、風俗嬢としてではなく、一般女性として遊んでいる感覚になる。それは、ほんとうに久しぶりの感覚だった。
「この後、どこか行くの?」
9月最後の土曜日。ホテルを出て、道玄坂の交番近くにあるカレー屋で一緒にランチをしている時だった。私は2種類のカレーの間に乗せられた半熟の目玉焼きを崩しながら答えた。
「ブルーライトをカットしてくれる眼鏡と、面接用の洋服買いに行くつもり。」
「そうなんだ。転職活動順調?」
「まだ面接始まってないから、なんともいえないなぁ」
私は優太に風俗嬢を年内で辞めること、ウェブデザイナーという設定である仕事を辞めて転職活動をすることを既に話していた。できる限り、この人には嘘をつきたくなくて、私が人妻だと辻褄が合うように話せるギリギリのことまで本当のことを話すようにしている。
「どんな仕事探しているの?」
「それもまだ決め切れていないんだよね。土日休みの仕事がいいから、会社勤めしたいな、って思ってる。」
半熟卵とカレーをスプーンですくいながら口に運ぶと、優太がなにか物欲しそうな顔をしていることに気づいた。
「良かったら一緒に買い物に行く?」
そう言うと、嬉しそうにパッと笑顔になる。こういった仕草を目にするたびに大型犬みたいだな、と思う。感情が尻尾に現れちゃうゴールデンレトリバーみたいな。
「優太、この後予定はないの?」
「今日はないよ。明日は会社の同期と遊ぶけど」
「なにして遊ぶの?」
「下北に服を買いに行く予定。」
「下北?おしゃれさんじゃん。優太ほど高身長でスタイル良かったら、何を着ても着こなせるよね。羨ましいわ」
「そんなことないよ。莉奈さんだってスタイル良いじゃん」
「私は足が短いから、パンツスタイルが似合わないのよ」
そんなことないと思うけどなぁ、と言っている優太に笑いながら残りのカレーを食べる。私も明日、下北に洋服を買いに行こうと思っていたが、鉢合わせするものアレだから吉祥寺に行こう。
カレーを食べ終えると、優太が会計をしようとするので私は二人分のお金を財布からだした。
「俺が払うからいいよ」
「いや、いつもごちそうになってるし、毎週指名してくれてるし、私もなにかお礼させてほしい」
「俺が好きでやってることだから気にしなくていいのに」
ため息をつきつつも私にお金を出させてくれる。
「こんな安いお礼でごめんね。今度なにか考えとく」
「ありがとう」
会計を済ませると、急な階段を優太にエスコートされながら上って外に出た。太陽の日差しはだいぶ柔らかくなったものの、まだまだ暑い。
「日傘、ささなくていいの?」
「うん、今はいいや」
手を繋ぎながら道玄坂を下る。途中でユニクロに寄り面接で使えそう、なおかつ一番安いシャツとスカートを購入した。センター街に向かい、何店舗かメガネ屋をハシゴする。
「どう?」
細い青い色のフレームに薄い黄色いレンズが入った眼鏡をかけて、隣を見上げた。優太は真顔で眺めたあと、こっちは?と、別の眼鏡を手渡してくる。べっ甲柄のやや四角い眼鏡をかけ、鏡で自分の顔を見た後に再び、どう?と尋ねた。
「さっきよりこっちの方がいいよ。」
「そう?べっ甲柄なんて派手じゃない?」
「そんなことないよ。似合ってる。」
こっちは?と更に少し形が違うべっ甲柄の眼鏡を渡してきた。それをかけながら、どう?と見上げた。
「やっぱりさっきの方がいいかも。」
そう言いながら、さっき私に手渡してきた眼鏡と今かけている眼鏡を交換する。再び先ほどの眼鏡をかけ、鏡で確認すると優太の方を見上げた。
「いいと思う。」
「じゃあ、これにしようかな。」
お会計してくる、と言うと、買ってあげようか?と言われたので、私は心の底から「いらん」と答えてレジに向かった。
受け取りまでに少し時間がかかるのでいったん眼鏡屋からロフトに移動して、ウィンドウショッピングをした。
「優太はコンタクト?」
「俺、視力2.0あるから」
「え!視力イケメンじゃん」
「視力イケメンってなんだよ」
失笑しながら、優太が繋いでいる手を急に引っ張った。つんのめって優太の腕につかまると、すぐ後ろを大きな荷物を持った男性が通り過ぎて行く。私はありがとう、と言いながら繋いでいる手を揺らした。




