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第14話 知夏_風俗店の意外な実情

 キャスト兼事務スタッフとして働くようになった私の1日はまず朝礼から始まる。10時に店がオープンするので、朝礼に間に合うよう15分前には出社するのだが、事務スタッフとして最初に驚いたことは社員数の多さだ。

 私が入店した人妻専門渋谷店に姉妹店があることは、ホームページでなんとなく知っていたが、姉妹店が予想以上に多い。渋谷、新宿、池袋、上野、五反田と山手線沿いに複数の店舗があり、南は福岡県の天神、北は北海道のすすき野と全国に店舗を展開している大手だった。

 全店舗が人妻をコンセプトにしているのではなく、アロママッサージを専門にしている店舗もあれば、女子大生やキャビンアテンダント、元モデルなど肩書を専門にしている店舗もある。しかし、主力は人妻をコンセプトとした店のようだ。

 基本的には1店舗につき店長1人が店を回すが、売上が高く店長1人では回し切れない場合は、専属のスタッフがついている。そのスタッフは私のようにキャストと兼任している女性もいれば、スタッフ専門として複数の店舗のフォローをしている人もいた。

 ざっと見渡しても30人近くいるフロアは、とても風俗店の事務所には見えず一般企業のフロアとなんら変わりは無かった。

 スタッフ全員にデスクとPCが与えられ、キャストを兼任しているスタッフ以外は全員スーツ着用。フロア内に大きなモニターが3か所配置されており、リアルタイムで各店舗の売り上げがランキング形式に表示されている。

 月初めには先月の売り上げ表彰が行われる。上位3位の店長達に若くて優しい顔立ちをした会長が、金一封とかかれた封筒を渡す恒例行事がある。その中でも渋谷店は何度も1位を取っており、私も渋谷店スタッフとしておこぼれにあずかることができた。

 朝礼では専務から伝達事項などを伝えた後、全員でスローガンを復唱する。

「お客様に感謝し、女性を稼がせることが至上の喜び!お客様にもキャストにも一流のおもてなしを!」

 そして最後に「オチャハゼロ!」と叫んで一気に仕事に取り掛かるのだ。とんでもなく体育会系である。ベンチャー企業にも引けを取らない暑苦しさに、事務スタッフとしての出勤初日に私は面喰ってしまった。

 わからないことは都度聞いてくれ、といった藤本店長に早速疑問を投げてみた。

「 オチャハゼロ 、ってどういうことですか?」

 イントネーションが分からなかったので発音がおかしかったかもしれない。店長は一瞬、きょとんとすると、あぁ、と理解した顔をして説明してくれた。

「お茶というのは出勤したにもかかわらず、お客様が付かず稼げなかったキャストのこと。出勤したからにはどんなに短時間シフトでも客をつけて稼がせることがここのルールだよ」

 オチャハゼロ、つまりお茶は0、ということを理解した私は後ほど、なぜお客様が付かないことをお茶というのか調べてみた。すると、なんとその由来は江戸時代まで遡る。

 お客様が付いていない暇な芸者や遊女が茶の葉を挽いて抹茶を作るのが仕事の一部だったため、そこから客が付かず暇なことを『お茶を挽く』というようになったらしい。

 ちなみにこの用語は今いる店特有のものではなく、風俗業界独自の言葉として現在も使われていることを知って、変なところで歴史深さを知って感動したものである。


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