第138話 優太_打ち明け話
「ナンパしに行ってたの?」
「最初は普通に屋台の飯食べよ、って感じだったけど、やっぱり女の子がいた方が楽しいじゃん?」
「カップルばっかりだったけどな」
「それで飲む場所変えようってなったわけね」
安っぽいお皿に盛られた枝豆をビールで流し込みながら相づちを打つ。
「優太はなんで上野にいるの?」
千早が電子タバコを用意しながら言った。俺は灰皿を弾くように千早の方へ渡す。
「いや、ちょっと、美術館に」
「え?なにしに?」
「いや、ちょっと絵を見ようかなと思って」
「そんな趣味あったっけ?」
訝しがる千早の目線を流してビールを飲む。ニヤニヤしながら大和が言った。
「怪しいなぁ?ん?正直に言ってごらん?」
「…」
「ねぇねぇ!無視やめて」
酔っている大和の絡みはちょっとめんどい。
「気になってる子が今日、その展示を見に行くって言ってたから俺も行ってみただけ」
「へぇ。展示を見に?それともその気になってる子を見に?」
千早が器用に片眉を上げながら聞いてきた。俺は素直に、両方だよ、と答える。
「え!気になる子って誰?」
「大和の知らない人」
「どんな子?」
「大和にはもったいない子」
「どこで知り合ったの?」
「大和が知らない場所」
「今日の優太、いじわるじゃん」
ひどいっ、と身を捩る大和に水を飲むように勧める。電子タバコを吸いながら思いついたように千早が、その子って素人の人?と言いてきた。なんと答えたら良いのか戸惑っていると、合点がいったようだ。
「あー、もしかして通ってる風俗の子?」
「え、俺、通ってるって言ったことあったけ?」
「あ、やっぱり通ってたんだな」
…墓穴を掘ってしまった。
「え、なに、優太、風俗通ってるの?あんなに俺が誘っても乗ってくれなかったのにぃ 」
興味津々さを隠そうともせず大和が身を乗り出し、それで?と尋ねてくる。俺は近くのスタッフにビールを追加注文し、残りのビールを流し込んだ。
「で、気になる子って、通ってる風俗の子?」
千早が1本めのタバコを灰皿に捨てながら聞いた。
「うん、まぁ…」
「それで、その子が美術館行くから俺も行こうかなぁ、って?」
「まぁ、そうなるな」
「で、その子に会えたの?」
「いや、見かけたけど声はかけなかったよ」
そう答えるとなぜか沈黙が降りた。大和がマジか、という顔をしながら水を飲んでいる。
「おいおい、それストーカーじゃん。風俗嬢からしたらそんな客怖すぎだって。あ!それで今日、上野にいたのか!」
一気に酔いがさめたように驚きの声を大和が上げる。千早も引いているようでちょっと傷つく。
追加のビールを受け取り、言い訳するように言った。
「いや、展示の期間が今日までだったし」
「言い訳が言い訳すぎる」
2本目の電子タバコを吸いながら千早が言った。
「けっこう通ってるの?」
「まぁ、週一程度で」
大和の質問に答えた俺に、千早が、えっ、と顔を向けた。
「仲間じゃん!俺もそのくらいで通ってるよ」
「いや、大和と優太じゃわけが違うと思うぞ」
嬉しそうに言う大和にすかさず千早が突っ込みを入れる。千早が言いたいことはなんとなくわかる。普段から風俗通いだけでなく、色んな女性を渡り歩いている大和と俺とではそもそも性質が違うのだ。
「なんのお店の子?ソープ?デリ?」
デリ、と短く単語で答えると大和は、デリはいいよね、やれるかどうかの瀬戸際が楽しいよなと言い、隣で千早が頷いている。
「いや、でも、あの子は結婚しているから」
俺としてはちゃんと線引きしているよアピールを言いたくて伝えたつもりだったが、二人の食いつきがすごかった。
「え、人妻?」
「エロいな~」
「いくつ?」
と矢継ぎ早に質問が飛んでくる。とりあえず最後の質問にだけ答えた。
「1個上なんだ。思ったよりも若いね。というか、優太、年上好みだったのね。うん、わかるよ。わかる。年上の女性って安心できていいよね」
1人で勝手に納得しながら大和は頷く。いつの間にかビールから日本酒を手酌で飲んでいる。人妻専門店?と聞いてくる大和に、そうだよ、と半ばあきらめた気持ちで答えた。すると千早が、単純に疑問なんだけど、と言って聞いてきた。




