第136話 優太_言い訳をしながら
…これって、ストーカーって思われないだろうか。
俺と同じチケットを手に取った人たちが、目の前を次々に通り越していく。西洋絵画史をテーマにした展示会は結構な人気ぶりで、こういった展示会に来たことがない俺にとっては軽くカルチャーショックだった。
会場の入り口近くにあるソファーに座りながら、混み合いながらも次々に会場内へ吸い込まれていく人たちを眺めた。昨日、帰り際に莉奈さんが言っていた、東京都美術館で行われている展示会は俺と同年代から高齢の方まで、幅広い層に人気のようだ。
莉奈さんが興味を持っているものを知りたい、と軽い気持ちで東京都美術館に足を運んだが、もしかしたらバッタリ会えるのでは、という下心があったことは否めない。
しかし、翌々考えてみると、もしこの場で幸運にもバッタリ会えたとしても間違いなくプライベート中だし、もし友人と来ていたら、その友人がもし莉奈さんが風俗嬢だと知らなかったら、迷惑以外のなにものではないのだろうか。
もし、もしも、莉奈さんが俺を偶然見つけるようなことがあったら何と思うだろうか。いつも向けてくれる笑顔になってくれるのか、ストーカーとしてヤバイ客として思われるのか二つに一つのような気がする。
やっぱりサクッとみて帰ろう。もう少し入口の行列が減ったら並び行くか、と思った時だった。
「えっ、めっちゃ並んでいるじゃん。」
俺のすぐ近くで女性の声が聞こえてハッとした。莉奈さんが良く履いている黄色いサンダルが視界を横切った。顔をあげた時には後ろ姿しか見えなかったが、確かに莉奈さんがいつもつけている香水の香りがした。
俺は座ったまま首を伸ばして、今目の前を通り過ぎた女性が莉奈さんかどうか確認しようとした。その人が隣にいる友人らしき人と話してる時に横顔が見えた。やはり、莉奈さんだった。
いつも降ろしている髪の毛をアップにして、夏らしい格好をしている。隣いる人はなんとも派手な髪色で金髪にところどころ赤色だ。
下 心はあったものの、まさかほんとうに見つけられるとは思ってなかった。逸る気持ちを諌め、俺は莉奈さん達と距離をとって列に並んだ。
展示会場の中は薄暗く静かなざわめきの中、大勢の人が順場に飾られた絵を見ている。少し先を行く莉奈さんは盛んに友人らしき人と話しながら絵を見ているようだったが、当然声はここまでは聞こえない。
莉奈さんは絵の前に立ち止まっては規制線ギリギリまで近づき、じっくりと絵を眺めている。なにがそこまでじっくりみて楽しいのかよくわからないが、これが莉奈さんが好きなもの達なんだな、と思う。俺にはサイゼリアで飾られてる絵に雰囲気が似てるな、の感想しか出てこなかった。
莉奈さんは緑色のドレスを着た女性の絵の前で随分長いこと立ち止まっている。彼女の隣にいた金髪の女性は先に他の絵を見に行ったようだ。俺は少し離れたところから、熱心に絵を見つめている莉奈さんの後ろ姿を眺めた。流石に声をかけようという気は起こらなかった。
莉奈さんがその絵の前から立ち去ると、俺は莉奈さんの後を追いかけるのをやめてその絵の近くに寄った。貴族だろうか。緑色のドレスにピンクのリボンがたくさんついており、現代のファッション感覚からすれば、なかなか無い組み合わせの色だよな、と思う。
こんなにボリューミーな服を着て昔の人は動きにくくなかったのだろうか?しかもこれだけ細かく描かれているなら、モデルになった女性も相当大変だったに違いない。一体何日も同じポーズを取り続けた事だろう。
気づけば莉奈さんはだいぶ先に進んでいたが、その姿から絵画に目線をずらして絵画鑑賞に専念することにした。
しかし、普段から絵画鑑賞をすることなんてないので、一枚一枚の絵をじっくり眺めず、気になった絵画以外は流すように見ていたらあっという間に莉奈さん達に追いついてしまった。俺は気づかれないよう、そっと追い越し出口に向かった。




